イベントレポート

【イベントレポート】問いのじかん  VOL.1福田萌さん

PIECESがお届けする「問いを贈ろうキャンペーン」。

「問い」を通じて自分や他者、世界に想いを寄せる。その想像力の先に、誰もが大切にされる社会があると信じて、このキャンペーンを行っています。

オンラインイベント「問いのじかん」スペシャルバージョンでは、代表の小澤いぶきが「問い」をゲストとともに深め、考えます。初回は、タレントの福田萌さんをゲストにお迎えしました。

福田萌さんは現在、シンガポールで生活しながら、児童虐待チーム「こどものいのちはこどものもの」やママのためのオンラインサロンを実施されています。
今回はシンガポールでの生活、子育てから感じる市民性などについて対談しました。

福田萌さんに答えていただいた「問い」とお返事

「いただいた幸せを返したい」という想い

対談では萌さんが現在お住まいのシンガポールで感じる市民性について、伺いました。
シンガポールではお子さんと手をつないで扉を開けようとすると、周りにいる人々が挨拶と共に笑顔でその扉を押さえてくれる、温かい気持ちを沢山受け取っているというエピソードをご紹介いただきました。今回、その方々を思い出し、問いのお返事をくださっています。
シンガポールの人々が温かく接してくれる理由を「その方々自身がそこに居ることを楽しんでいる」「同様の温かい気遣いを受けてきた経験からなのではないか」とおっしゃっていました。温かい気持ちを受け取ることで、萌さん自身も「いただいた幸せを私も返したい」という気持ちが芽生えているとお話くださいました。


違いを認め合う文化

シンガポールで子育てをする中で「多様な人が同じ国で生活していることから『違って当たり前』という文化を感じる」とお話くださいました。会話が円滑に進まなかった際も、理解しようと耳を傾けてくれる優しさがある国だと萌さんは感じているそうです。
相手と接した際に、ラベリングから入るのではなく、純粋な関心から入る特徴があるのかもしれないと小澤は重ねています。子どもを取り巻く環境において、寛容な視点があるということは、SOSを出しやすいことに繋がるという話がされました。

様々な人の視点を入れたまちづくりデザイン

ベビーカーを押していると、ちょっとした段差があるだけで前に進めないなどの経験を通して、母親になって自分が弱者になったような感覚があったとご自身のリアルな想いを伝えてくださいました。
萌さんは、様々な立場の人の視点を持つことが、まちづくりやお店づくりへの新たな気づきに繋がると考えています。小澤も、『もし私がこの人だったら』『この人の経験を社会に繋げるとしたら』という視点を大事にしたいと言及しています。

萌さんからのメッセージ

問いを通じて、自分の状況や自分がされて嬉しかったこと、悲しかったこと、想いを改めて見つめ直すことができています。
是非、問いを通じて、自分の願い、新しい自分を見つけるきっかけにして欲しいです。

シンガポールでの子育てエピソードと共に、新たな視点から「問い」を考えることができた時間になりました。置かれている状況が違えば、感じること、思うことが違うことは当たり前です。
だからこそ、自分の立場を違う人の想いを想像することが、色んな人への安心感や心地よさ、大切にされているという感覚に繋がります。
この時間を通じて、改めて「問い」をきっかけに、自分、地域、世界に対する想像を膨らませていきたいと思いました。

最後になりますが、ゲストの福田萌さん、配信を見てくださった皆さん、本当にありがとうございました。

執筆:広報ファンドレイズ インターン 挽地真央

以下よりアーカイブでご覧いただけます。


次回は、9月16日(金)21:00より、フォトジャーナリストの佐藤慧さんをお迎えし、開催予定です。
PIECES公式SNS(Facebook、Twitter)より、ご自由ご覧いただけます!
YouTubeからご覧いただく場合はこちら https://youtu.be/iBycL-Wakps

また、毎週月・水・金曜日にTwitte、Instagram、LINEにて問いを配信しています。是非、問いを通じて、ホッと一息ついてくださいね。twitterではさまざまな方のお返事もご覧いただけます。

【PIECES ROOMレポート】小澤いぶきが今聞きたい、あの人の市民性 | VOL.2 犬山紙子さん

PIECESを応援してくださっている各界の著名な皆さまと一緒にライブ配信を行う「PIECES ROOM - 小澤いぶきが今聞きたい、あの人の市民性 -」の第2回を開催しました。

PIECES ROOMは、市民性の意味や、市民性の先にある優しい間が広がる世界について、PIECES代表の小澤いぶきとゲストの方が語り合う配信です。

第2回ではゲストに、イラストエッセイストの犬山紙子さんをお迎えしました。

子育て真っ最中という共通点から、実際のエピソードやそこで感じたことを中心に対談が進みました。こちらのレポートでは、配信の内容を簡単に紹介します。

専門家でない大人にもできることがあるはず

 コメンテーターとしてもご活躍されている犬山さんは、児童虐待の解決に取り組む「こどものいのちはこどものもの」としても活動をされています。日々子どものニュースに触れる中で、選挙権を持っているのは大人、子どもの意見や気持ちを汲み取ることも大人が積極的に取り組んでいく必要があるのではと感じられたそうです。「子どもに向けて、専門家でない大人にもできることがあるはず」「橋渡し、手を繋ぐ存在になっていきたい」とお話くださいました。

子どもたちから学ぶ市民性

小澤からの「市民性を感じた瞬間はあるか」という問いに対し、お子さんが1歳のとき、電車の中でぐずり始めた際に、小学生の男の子があやしてくれたエピソードをお話くださいました。お子さんだけでなく、犬山さんご夫婦もその小学生の行動に嬉しさを感じたとお話くださいました。小澤は、子どもたちといるとハッとする気づきがある。子どもたちの率直さが、人と境界線なく関わることを可能にしていると言及しました。

「わたしはここに居ていいんだ」という感覚

 市民性を発揮するには頑張る必要がある、と感じられる方もいらっしゃっるかもしれません。でも小さなことでも相手に安心感を与えることができると小澤は考えています。産後、犬山さんはあるお仕事の現場にて、子育て経験のあるスタッフの方が仕事をしやすい環境を整えてくれたエピソードをお話くださいました。「この気遣いが、『子育て中でも、わたしはここに居ていいんだ』という気持ちに繋がった。自分自身が救われた。」とお話くださいました。小澤は、「わたしはここに居ていいんだ」という感覚を連鎖・手渡しされる環境が生まれることへの願いを重ねました。

市民性の循環

続けて犬山さんから、小さなお節介を行っていくことが大事だと感じているとお話がありました。「子育てを経験することで、子育てに対する解像度が上がり、子どもに対する”市民性”が変わってくるのかもしれない。しかし、体験したくとも体験できないこともあるということを踏まえると、「考える教育」が必要だと感じている。そして、これは子育てだけではなく、マイノリティな分野に対しても当てはまる」とお話くださいました。また大人が姿勢を見せていくことも大切だとおっしゃていました。

犬山さんからのメッセージ

「センセーショナルなニュースを見た際に、怒りの感情が湧くことは起きてもいいこと。その上で、一度立ち止まり、予防するために自分なりにできることを考えることも大切なのではないか」とメッセージをくださいました。

リアルな子育てエピソードと共に、市民性について改めて考えることができた時間になったのではないでしょうか。「私はここに居ていいんだ」という感覚は、誰かの小さな気遣いから生まれていくものです。受けた気遣いが、次に誰かへの気遣いに繋がっていく、連鎖していく、その先に優しい未来が待っています。日々の生活において、自分を大切にしながらも、周りに対しての気遣いを持ち続けていきたいと改めて思えた時間でした。

PIECES ROOMの配信はアーカイブとして残っています。配信に興味を持ってくださった方はぜひ見てみてください。また、PIECES ROOMは様々なゲストをお迎えして、定期的に配信予定です。ぜひ今後もチェックしてもらえると嬉しいです。

最後になりますが、ゲストの犬山さん、配信を見てくださった皆さん、本当にありがとうございました。

執筆:広報ファンドレイズ インターン 挽地真央


【PIECES ROOMレポート】小澤いぶきが今聞きたい、あの人の市民性 | VOL.1 鬼丸昌也さん

PIECESを応援してくださっている各界の著名な皆さまと一緒にライブ配信を行う「PIECES ROOM - 小澤いぶきが今聞きたい、あの人の市民性 -」が初回を迎えました!

PIECES ROOMは、市民性の意味や、市民性の先にある優しい間が広がる世界について、PIECES代表の小澤いぶきとゲストの方が語り合う配信です。

初回のゲストには認定NPO法人テラ・ルネッサンスの創設者である鬼丸昌也さんをお迎えしました。配信の内容を簡単にご紹介します。


自分たちの行動で社会を変えられる 

テラ・ルネッサンスは「すべての生命が安心して生活できる社会(世界平和)の実現」を目指して、活動されています。海外の『地雷』『小型武器』『子ども兵』の課題に対する現地での直接的な支援活動に加え、国内では『平和教育』を中心とした啓発活動に取り組まれています。
鬼丸さんから「海外でおきていることが自分たちも関わっていることを知ると心が痛むかもしれない。でも逆から捉えれば、自分たちの行動で社会を変えていけるということだ。」というお話がありました。「自分たちにも責任があるということは行動次第では希望があるとも言える」、「微力ではあるけれど、無力ではない」と伝えてくださいました。


市民性の獲得は旅である 

小澤からは市民性を広げようとしているものの、自分自身も不完全であるという話がありました。鬼丸さんは市民性は旅であると言えるのではないかと指摘してくださいました。そして「PIECESの市民性は優しい。優しさはおとなしいとは違い、躍動的だということ」と表現してくれました。PIECESはメイトをはじめ、関わっている皆さんが仲間であり、その輪が市民性を体現していると共鳴しました。


相互尊重・相互学習・相互支援

市民性を支援者・被支援者として関わることではなく、1人の人として関わることであると考えています。テラ・ルネッサンスで大切にしている「相互尊重・相互学習・相互支援」という価値観の紹介があり、活動の中、日常の中で体験した相互での関わり・学び合いについていくつか言及していただきました。
私たちの尊厳は「目に見えないインフラ(優しさや関心、信じてもらうことなど)」に支えられていることを改めて実感しました。


寄付の意味 

鬼丸さんはPIECESのメイトとしても関わってくださっています。そんな鬼丸さんにとって寄付とは「社会への投資でもある。ただもう1つ大事な意味として、自らを見つめ、自らを変える手がかりになることがある」、「寄付をすることによって私と社会の関係に気づくことができ、自分の中に社会性が生まれ、それは自尊心につながる」とお話しくださいました。また、PIECESのメイトでいてくださる理由としては、PIECESが面白そうだからということ、PIECESがやっていることはわかりにくいからこそ支えるべきだと思っていることを挙げてくださいました。


鬼丸さんからのメッセージ 

「思いがけないことがおきても、絶望があふれた社会に絶望する必要はない。自分の内側の希望にフォーカスすることや、自分ができたこと・やろうとしていることにフォーカスすることが大切である。」と温かいメッセージをくれました。



初回のPIECES ROOM、市民性に向き合うとても素敵な時間になりました。様々な出来事やニュースに出会うと、自分の無力さについ絶望してしまうことも多いと思います。ですが、私たちは相互に関わり合う存在です。自分次第で社会を少し変えることができる、それは希望があると言えることに気づいた時間でした。絶望した自分の気持ちを抱きしめながらも、そこには希望があるかもしれないという視点を持ち続けようと思えました。
PIECES ROOMの配信はアーカイブとして残っています。配信に興味を持ってくださった方はぜひ見てみてください。

また、PIECES ROOMは様々なゲストをお迎えして、定期的に配信予定です。ぜひ今後もチェックしてもらえると嬉しいです。
最後になりますが、ゲストの鬼丸さん、配信を見てくださった皆さん、本当にありがとうございました。

執筆:広報ファンドレイズ インターン 小森 佳歩


次回開催決定!

イラストエッセイストの犬山紙子さんをゲストに「子育てを通して感じていること」「子どもの権利」などについてお話します。ラジオ感覚で、お気軽にご視聴ください!

【ライブ配信概要】

日時:7月27日(水) 21:30-
場所:Facebook / YouTube / Twitter 同時ライブ配信
申し込み:不要
※各SNSからご自由にご視聴いただけます。

※YouTubeリンク:https://youtu.be/IG6AEMzRasA

【イベントレポート】「ひとりひとりの手元から未来をつくるー市民として生きるって、どういうこと?」を開催しました。

PIECESは今年6月に設立から6周年を迎えました。PIECES設立6周年を記念して、6月25日(土)に特別トークセッションを開催しました。
モデレーターに評論家・ラジオパーソナリティの荻上チキさん、スピーカーに一般社団法人 NO YOUTH NO JAPAN代表理事・ハフポスト日本版U30社外編集委員の能條桃子さんをお招きしました。

モデレーター:荻上チキさん
評論家・ラジオパーソナリティ

メディア論を中心に、政治経済、社会問題、文化現象まで幅広く論じる。NPO法人「ストップいじめ!ナビ」代表、「社会調査支援機構チキラボ」所長。出演「TBSラジオ・荻上チキsession」、著書『ウェブ炎上』『いじめを生む教室』『みらいめがね』など

スピーカー:能條桃子さん
一般社団法人NO YOUTH NO JAPAN代表理事・ハフポスト日本版U30社外編集委員

1998年生まれ。若者の投票率が高いデンマーク留学をきっかけに、2019年7月政治や社会の情報を伝えるInstagramメディアNO YOUTH NO JAPANを立ち上げ、団体創設。「参加型デモクラシー」ある社会をつくっていくために活動を展開。団体近著に『YOUTHQUAKE~U30世代がつくる政治と社会の教科書~』ジェンダー、気候変動に関心

PIECESは設立当初から「こどもがこどもでいられる社会」を目指して、活動を行ってきました。こどもがこどもでいられる社会は、わたしたち大人が自分として生きていける社会から生まれるものかもしれません。

当日は小澤いぶきからPIECESの活動紹介、能條さんからNO YOUTH NO JAPANの活動紹介の後、荻上さんをを含めた3名で、”私たちが生きやすい社会とはなにか”について、市民性(シティズンシップ)をキーワードにセッションを行いました。このレポートでは、セッションの要点をご紹介します。


市民性を考える

最初に荻上さんから”市民性”というキーワードを歴史の経緯から整理していただき、まずはそれぞれが考える市民性について考えを深めました。

能條さんからデンマークへの留学経験から、日本と海外の市民性の違いについて「デンマークでは小さなコミュニティの延長に大きなコミュニティがあるという意識がある。小さなコミュニティを変える経験を持っているからこそ、大きなコミュニティも変えられるという考えを持っている人が多い。」という話がありました。
小澤からは「日本でも何かしたいと思っている人は多いけれど、それをやってみるハードルが高くなっている。エンパワーメントする環境が必要ではないか。」という話がありました。

社会を変えられるという意識を持つ

社会を変えることはできないという考えを変えるためには「知識」と「統制感覚」が必要であると荻上さんがお話しくださいました。「知識」とは社会との関わり方を知っていることだけでなく、それを手段として実行できる環境があることも必要です。そして「統制感覚」とは社会をコントロールできる、という感覚のことです。ここでは統制感覚を持つためには何が必要か話しました。

能條さんからは、自身は統制感覚を持つことが出来る経験や仲間を得ることができたから、今活動できているという話がありました。身近に統制感覚を持つための種となる経験が大切になってくると荻上さんに付け加えていただきました。

また小澤からは、自分の人生は自分でつくっていけると知る経験には格差があるのではないかという話があり、自分で選択をしていけると気づくことが、最終的には社会を変えることができると思える市民性につながっていくということが話されました。

社会に対して関わろうとする

荻上さんから子どもに対して将来の夢を聞くことについての言及がありました。”将来の夢”は就きたい職業のことを指す場合が多いです。そうではなくて、「自分が将来どうなりたいか」と「どういう社会をつくりたいか」の2つを一緒に考えるべきではないかとお話がありました。ここでは、どうすれば社会と関わろうという考えに至るのか話されました。

能條さんはNO YOUTH NO JAPANの活動を始める経緯について、特にデンマークへの留学経験をもとにお話しくださいました。「デンマークに惹かれたのは、誰か優秀なリーダーがいることではなく、民主主義が実現されていること、対話が実現されていることだった。対話があることで自分が無視されないという経験ができる」と指摘されました。また、荻上さんの話を踏まえて、能條さんからは社会に対して何をしたいかという問いをされることの大切さを気づきとしてあげられました。小澤からはその問いを考えることが共有感覚を育むことにもつながるというお話がありました。

質疑応答

ご参加いただいた方からは様々な視点からご質問をいただきました。
「若者の政治参加を考える上で、新しい政治モデルとして何か考えられることはないか」「子ども自身が自分の声に気づくためにはどうするべきか」といった質問がありました。

子どもや若者の声を聞く政治モデルについての話、子どもをジャッジしないことの大切さなど、話をさらに深めていただきました。

参加者の声

以下、ご参加いただいた方からの感想を一部ご紹介します。

・とても優しく子どもがほっとする活動をされていると感じました。子どもは宝と私は思います。未来の大人をみんなでしっかり支えて、過ごしやすい社会になればと思いました。

・能條さんの、自分の力で何かを(校則など)を変えられる経験を学校で積む、と言うお話しが印象的でした。わたしが子どもの頃は、何かおかしいなと思ったら自分の状態を変えるだけで、外に対しては全く意識が向きませんでした。外を変えてみる発想にすらならなかったと記憶しています。今はどうかな、と自分を見つめるきっかけになりました。

「政治体制ではなく、在り方としてのデモクラシー」が印象的でした。個人が尊重される環境に身を置くからこそ、自分も他者も価値ある存在だと実感できるからこそ、失敗はあれど学習性無力感に陥ること無く現状を変えようと行動できる。このように自分や他者に未来があると想像できること、その未来に希望を持ち行動できること、それはとても幸せなことだと私は思います

・今回お話しくださった皆様の姿勢から、ありたい社会を実現させたいと願う自分自身を肯定したり応援したりすること、そしてそれを実現させる為の知識とセンスオブコントロールの必要性を感じました。まずはそこからなのだろうと思います。この度はこのような場を開催くださりありがとうございました。

市民性を醸成するとはどういうことか、何が必要なのかを改めて深く考える時間になりました。
異なる分野で活躍されている3名だからこそ、色んな視点から市民性について考えることができ、わたしたちが社会と関わり続けるためには、関わろうと思えるための種を得られる環境が必要であると感じました。

このイベントに参加すること、市民性について考える時間を持つこと、それ自体が市民性を醸成すること、社会と関わることになったと思います。ぜひこれからもみなさんと市民性について考え、対話する時間を持っていきたいと思います。

最後に話題になりましたが、登壇してくださった荻上さん、能條さん、そして参加してくださった皆さま、本当にありがとうございました。

執筆:広報ファンドレイズ インターン 小森 佳歩

イベントレポート|Citizenship for Children 実施報告会 子どもの周りに優しい「間」があふれる地域をつくるーひとりひとりの中にある市民性ー

子どもたちが豊かに生きられる地域・社会における市民性とはどんなものでしょうか。子どもを取り巻く社会にはたくさんの困難があり、多くの子どもたちが安心して頼れる存在がなく孤立している現状があります。

PIECESでは、子どもたちの生きる地域に、子どもたちにとって信頼できる大人を増やし、「優しい間(ま)」を広げることを目的に、「Citizenship for Children」(以下:CforC)という市民性を醸成するプログラムを実施しています。

プログラムで行うのは、いわゆる支援職や専門職の養成ではありません。子どものためだけでも自分のためだけでもない、その両者を大切にするとはどういうことかを問う視点をもった上で、具体的なアクションを起こすこと。

そして、子どもとの関わりに答えを求めるのではなく、学び続け、問い続ける姿勢を持つこと。ひとりひとりの市民性を醸成し、市民によるアクションが子どもの生活する日常の中に生まれ続けていくことを目指しています。

2016年に始まった活動は、多くの方に支えられ、今年で5年目を迎えます。4月24日にCforCのこれまでの歩みについて発表する報告会が行われました。報告会には修了生も参加し、プログラムを受講して得た学びや気づきについて紹介しました。


PIECESの課題意識ー子どもの心の孤立

まず、PIECES理事の斎典道(以下:斎)から団体紹介を行いました。

斎:子どもたちの周りで、相対的貧困・虐待・いじめなどが起きています。これらの社会課題の背景にあるのは「子どもの心の孤立」です。この孤立感にPIECESは課題意識を持ち、どうすればこの課題を解決できるかを考えてきました。

誰かに助けてほしいけれど、信頼して相談できる人はひとりもいない。周りに大人はいても、自分のことを真剣に見つめてくれる大人がいない。そう感じている子どもたちに出会ってきました。

困ったとき周りの大人に頼る方法もあるかもしれませんが、「人に頼る」ことは実はとても主体的な行為で、たくさんのエネルギーが必要です。実際に人に頼るまでには、自分の現状を問題だと認識し、相談したい相手が思い浮かび、実際に相談しに行くという3つのハードルがあります。それを子どもたちに求めることは酷なことだと思います。私たちは「子どもの心の孤立」は社会が生み出している課題なのではないかと考えています。

私たちが活動を始めた当初は、子どもたちに出会う場づくりを行っていました。でも、活動を続ける中で、現実があまり変わっていないような気がしたんです。そして、私たちがたどり着いたのが「人」にアプローチすることでした。

目の前のひとりの子どもを、ひとりの人として見ること。目の前の子どもの痛みに気づくこと。そして、子どもに関わる人自身も健やかであること。そうでなければ、子どもが大切にされる環境はつくれないのではないかと思っています。

親や先生や支援者の存在が大切なことは言うまでもありませんが、ひとりの市民としての関わりをつくっていくこと。市民性の醸成を通じて、少しずつみんなで自分の手元から社会を変えていくことができると考えています。

PIECESがみつめる未来は「時代を超えて、子どもと共に優しい間をつむぎ続ける社会」です。子どもと共に優しい間をつくる人が増えていく。そのことが私たちのミッションです。

 

子どもが孤立しない地域をつくる市民生醸成プログラムCitizenship for Childrenとは?

続けて、PIECES理事の斎と青木翔子(以下:青木)が、CforCのプログラム内容を説明しました。

斎:CforCは市民性の醸成を通して、子どもたちにとってのウェルビーイングを探究するプログラムです。子どもにとっても大人にとっても良い関わりとはどんなものなのかを探究しています。

子どもとの関わりに正解はありません。だからこそ、CforCでは座学、ゼミ、実践・リフレクションの3つを通して、様々な人の声に耳を傾けながら、学び続け、問い続けることを大事にしています。

プログラムでは、子どもと自分両方の行動の背景にある感情、願い、価値観に目を向けていきます。子どもの願いや価値観に目を向けると同時に、自分自身の願いや価値観も丁寧に扱っていきます。

青木:2020年は新たなチャレンジを行い、CforCのコースを3つに増やし、市民性の輪を広げてきました。一つ目は、オンラインの講座を見て学ぶ「基礎知識コース」です。このコースでは月1回動画を見て、子どもと接するときの知識やマインドセットを半年間で学ぶことを実施しました。

二つ目は、基礎知識コースの内容に、月1回のゼミとリフレクションを加えた「探究コース」です。住んでいる地域の枠を超えて学び合う「一般クラス」、「水戸クラス」(協業団体:NPO法人セカンドリーグ茨城)、「奈良クラス」(協業団体:認定NPO法人Living in Peace)の3つのクラスで「探究コース」を実施しました。

三つ目は、探究クラスの修了生向けの「プロジェクトコース」です。このコースでは実際に自分のアイデアをプロジェクトにし、地域で自分のできることをはじめていきます。9つのプロジェクトが実際に立ち上がりました。重症児(者)施設の1階に駄菓子屋スペースをつくり、子どもたちが気軽に訪れることのできる居場所をつくった「+laugh(アンドラフ)」などのプロジェクトが生まれています。

CforCの目標は3つあります。一つ目は、子どもへのまなざしの獲得です。子どもの願いを大切にしながら、自分にも子どもにも尊厳を持って関わること。好奇心をもって子どもに接すること。自分の価値観のメガネに気づくこと。これらを通して、子どもへのまなざしを獲得していくことを目指します。

二つ目は、一人ひとりの市民性の探究です。自分の願いも大切にしながら、一人ひとりの市民性を追求していき、その人らしく行動できることを目標としています。三つ目は、学び続け、問い直し続けることです。関わりに正解はないからこそ、内省的な振り返りを繰り返していきます。

 

プログラムで実際に行ったワーク紹介

青木:探究コースで実際どのようなワークを行っていたかをご紹介します。例えば、「支援」と「関わり」の違いについてのワークをしました。支援は目的や終わりがあります。一方、関わりには明確な目的や終わりはなく、困っていなくても人とつながっていけるという特徴があります。ワークを通して、市民一人ひとりにできる関わりを考えました。

また、CforCではリフレクションを大切にしています。子どもとの関わりを振り返って言語化し、そこから気づきを得て、次にどうするかを考えていく。プログラムでそんな経験学習のサイクルを回していきます。

PIECESでリフレクションを行う目的は2つあります。一つは、自分の見過ごしている感情や想い、願いに目を向け、それらを受け止めていくことで、子どもと関わる自分のあり方を見つけることです。もう一つは、子どもの願いや背景に想いを馳せ、次からの関わりを探究することです。

例えば、ひとりの女の子に話しかけたとき、その子の反応があまり見られないということがあったとします。その子が興味を示してくれないというのは、私たちが持っている価値観のメガネです。ワークでは、子どもの表情や様子を観察して、客観的な情報から子どもを見ていきました。プロセスコードというツールを使い、自分の気持ちや子どもの気持ちに気づいていくワークを行いました。

 

2020年に生まれた成果ー多くの参加者が子どもの発言の背景を考えるように

プログラム内容を説明した後、参加者に行ったアンケートの調査結果についてお伝えしました。

斎:プログラムの前後で参加者にどのような変化があったかを確かめるため、アンケート調査を実施しました。多くの参加者がアンケートの中で、CforCが役に立ったと回答しています。

子どもは守ってあげる“支援対象”で、大人が弱い存在の子どもを守っていく。プログラム前はそのように捉えていた方も、「相手に合わせて話を聴く」「話を深める問いかけを行う」の項目が伸びていたことから、子どもとの関わりの質が向上したことがわかりました。プログラムを通して、子どもを支援するのではなく、子どもと共に並んで歩いていくという姿勢の変化が起きています。

アンケートでは、参加者の9割以上が「子どもの発言の背景を考えるようになった」と回答しており、子どもへの関わりに重要な想像力が培われたという結果が出ています。他にも「普段の子どもへの声かけの仕方が変化した」「知人の子やまちで見かけた子の中で、気になる子どもに気がつくようになった」といった声も聞かれました。

 

取り組みで得た新たな気づき・CforC2021に向けて

続けて、CforCで得た気づきと今後の動きについての紹介を行いました。

斎:市民性を醸成していく上で大事なものが何かをこの5年間探し続けています。その一つとして、「葛藤」というキーワードが見つかったと思っています。葛藤は市民性や子どもとの優しい間を探究していく上で大切なことだと考えています。

正解がないからこそ、子どもと関わるときには不安や迷いといった葛藤が生まれます。でも、子どもと関わる上で、葛藤という複雑さや曖昧さと共にいれることが、すごく大事なことなのかなと思っています。

わかりやすい正解がどこかにあるんじゃないか、ある方法が合理的でスピードが速いのではないかと感じることもあると思います。

でも、一見遠回りかもしれないけれど、子どもとの関わりに答えを求めるのではなく、学び続け、問い続ける姿勢を持つこと。子どもの周りの環境をつくっていくときに感じる葛藤を大事にできるといいなと思っています。

オンラインを使いながら、これからはさらにCforCの規模を拡大していきたいです。また、今よりも短期間のコースを設け、より参加しやすいプログラムを設計していきたいです。また、修了生を含めたコミュニティの醸成も行っていきたいと考えています。

 
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CforC2020 修了生インタビュー

報告会の後半に、2020年のCforC修了生から、プログラムを受講して得た学びや気づきについてお伝えしました。報告会には一般クラス・水戸クラス・奈良クラスから、5名の修了生が登壇しました。本レポートでは、奈良クラス修了生の糠塚歩里さんの声をご紹介します。

── 自己紹介をお願いします。

現在は会社員の傍ら、学生として心理学を勉強しています。その他の活動では、週に2度ほど近隣の子ども食堂でボランティアをしています。

── プログラムに参加した感想を教えてください。

CforCに参加するまでは、無意識の中で自分が子どもたちに何かをしてあげる立場だという思いがありました。でも、プログラムを通して、与える側と受け取る側というコミュニケーションはないと感じました。

また、CforCに参加して「自分のことも大切にする」ことを学びました。自分のままで子どもたちと関わり、良い関係をつくっていくこと。それがCforCで得た1番の学びです。

── CforCがきっかけとなり、子ども食堂での活動を始められたと思うのですが、ボランティア活動の中で感じていることはありますか。

プログラムの中で講師の方から、ただその場を共有することの大切さを伺いました。子どもたちのために何かを与えてあげるという視点ではなく、ありのままでただそこにいて、その時間を一緒に共有する。そんな優しい間を子ども食堂で感じています。

── プログラムの中で印象に残っていることはありますか。

自分と子どもの関わりを振り返るリフレクションのワークが印象に残りました。子どもがどういう気持ちでその反応をしたのかを紐解いていくのと同時に、自分自身の心がどう動いたかにも焦点を当てていきます。

過去に自分の中にできた価値観や、今自分が大事にしていることをリフレクションで振り返ることができました。

その中で、こうあるべきという思いが自分の中にあったと気づきました。「大人だからこうあるべき」「子どもに対してこういう関わりをするべき」といった思いが自分の中にあったんです。

リフレクションを通して「〜すべき」という価値観ができあがってきた背景に気づきました。「目の前の子どもに対して、自分がこういう感情を持ったのは、過去にこんな経験をしていたからだったんだ」と感じ、自分自身を大切にしていくきっかけにもなりました。

そして、自分が居心地良く、また子どもにとっても良い関わりをしていくために、自分がどう行動すれば良いかもCforCを通じて考えることができました。

── 糠塚さん、ありがとうございました。


一人ひとりの市民としてできることを考えていくこと。自分のことも大切にしながら、子どもの願いに思いを馳せること。学び続け、問い直し続けること。そうして市民としての関わりをつくっていくことが、子どもたちの周りに「優しい間」を広げることにつながっていきます。

CforCの修了生が自分たちの手元からアクションを起こし、新たなプロジェクトが生まれています。一人ひとりの子どもへのまなざしが、うねりとなって社会を変えていきます。

それぞれの市民によるアクションが、子どもの生活する日常の中に生まれ続けていったとき、子どもたちの周りの環境はどう変わっているでしょうか。

子どもたちが孤立の中で生き続け、社会のことを信頼できなくなる明日よりも、人の想像力から生まれる優しいつながりが溢れる未来を、PIECESはこれからもみなさんと共に創っていきたいと思います。

2021.05.17

執筆:田中 美奈

イベントレポート|わたしの暮らす社会に対してできること〜市民性とソーシャルアクション

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SDGsの広まりなどを受け、社会課題解決に対する世の中の関心が高まりつつあります。「私にも何かできることがあるのだろうか」と考えたことのある方も多いのではないでしょうか。

子どもが孤立しない地域をつくるための市民性醸成を行う認定NPO法人PIECESと、「すべての人にチャンスを」をビジョンに、児童福祉をはじめ、様々な社会課題解決に取り組む認定NPO法人Living in Peaceの両代表による、オンライン対談が3月24日行われました。

2団体に共通するのは、社会を「特定の個人や団体ではなく、社会に暮らすわたしたち皆で変えていくもの」と考えていることです。そんな両代表が「社会をよりよい場所にしていくために大切なことは何か」についてお話しました。


団体紹介

まず、PIECES代表の小澤いぶき(以下:小澤)から、団体紹介がありました。

小澤:私は、心のケアを専門とする児童精神科医です。現場で出会う子どもたちを通して、この日本でも私たちのすぐ隣に痛みを抱えている子どもたちがたくさんいることを知りました。

子どもたちの周りには子どもの育つ環境があるけれど、その環境にいる人も痛みを抱えていたり、ひっ迫していたりして孤立していることがある。家族の相談を受ける機関もひっ迫しているという状況をたくさん見てきました。

子どもを取り巻く社会構造のひずみが、子どもたちにしわ寄せられています。その構造に対して、誰もが関わっているからこそ、一人ひとりの手から社会にはたらきかけていけるような土壌を耕していく必要があると思い、PIECESを立ち上げました。

相対的貧困は7人に1人、虐待相談対応件数約19万件(2019年度)、いじめの認知件数約54万件。貧困や虐待、不登校などの社会課題の背景にあるのは、子どもたちの心の孤立です。10人に3人の子どもが孤独を感じているとの報告もあります。孤立は、社会が生み出しているループです。

PIECESが目指し見つめているのは、時代を超えて子どもと共に優しい間を紡ぎ続ける社会です。優しい間というのは、互いに安全に頼り頼られる関係や、安全に自分の感情や欲求、願いを出せること。子ども自身やその子の背景に敬意を持ち、知ろうとし、想像力を持って尊重すること、関わりを問い直し続けていくことが優しい間には必要だと考えています。

社会に起こるさまざまなことを見つめ、受け取り、その上でさまざまにはたらきかけていく優しい間を紡ぐ力を私たちは市民性と呼び、市民性醸成プログラム(Citizenship for Children)という講座を全国へ広げています。皆さんがPIECESの想いに共感してくださり、何か自分にできることはないかと考えた時に、思い出していただけたら嬉しいです。

この講座は、子どもの環境を作っていくひとりの市民としてできることを考え深めていくプログラムです。座学にゼミと実践を加えて学び、子どものことはもちろんのこと、自分自身も大切にする方法を学んでいきます。

この講座から、例えば豊島区の若年妊婦支援プロジェクトである、project HOMEの前身となった「もえかんち」や、水戸市のコンビニオーナーさんが地域の子どもと話し合いながら、イートインコーナーをフリースペースとして開放し、地域の子どもたちの居場所にするなどの実践例が生まれています。現在、水戸市と奈良に続き、オンラインでの全国コースも開講しています。奈良のコースは今日登壇しているLIPさんと一緒に行っているものでもあります。

 私たちは子どもたちが孤立の中で生き続け、社会のことを信頼できなくなる明日よりも、人の想像力から生まれる優しい間のあふれる社会を創りたいと願っています。マンスリーサポートなどでのご支援もよろしくお願いします。

続けて、認定NPO法人Living in Peace(以下:LIP)の代表理事、中里晋三(以下:中里)と龔 軼群(キョウイグン・以下:キョウ)が団体紹介を行いました。

中里:2007年にLIPは、主に途上国の貧困層、金融サービスにアクセスできず銀行口座を持てずにいる人へ、小口融資を行うマイクロファイナンス領域でのプロジェクトからスタートした団体です。

キョウ:村で小さなお店などをしていて、事業のためにお金が必要な一方、親類や高利貸しという選択肢しかなかった人たちに、日本の投資家から融資を募り、ミャンマーやカンボジアなど東南アジア諸国でこれまでに約2億3000万円規模のファンドを立ち上げてきました。

その後、2009年には、社会的養護の下で育つ子どもたちへ支援を行う、こどもプロジェクトを始めました。国内の児童養護施設や里親の元で生活する子どもたちの支援、子ども食堂などを行ってきました。2018年には難民プロジェクトという、日本国内の移民難民の支援をする活動を立ち上げています。

中里:LIPのビジョンは「すべての人にチャンスを」というものです。そして活動におけるモットーが「働きながら社会を変える」。LIPは現在150人ほどのメンバーで運営していますが、全員が他に本業を持ち、平日夜や土日を使ってパートタイムで活動しています。僕自身、普段は大学院で哲学を使いながら福祉を研究しています。

キョウ:私は株式会社LIFULLの社員ですが、住宅弱者の住まい探しをサポートするLIFULL FRIENDRY DOORという事業を通じてソーシャルアクションを起こしており、現在はその事業責任者も務めています。

もともと、上海から5歳で来日した移民なので、日本社会での外国人という異物感や不平等を肌で感じてきました。そんな経歴も手伝って、LIPでマイクロファイナンスプロジェクトや難民プロジェクトに関わっています。

ソーシャルアクションは、企業の中でもNPOでも、どちらでもやろうと思えばできることです。LIFULLでは最初ひとりでソーシャルアクションを始めましたが、徐々に仲間が集まって来て、いつの間にかキャリアにもなっていました。社会に対してできることを探している人へ、一例として参考にしてもらえればと思います。

中里:ちょうど今年に入って、「移民・難民の子どもたちのいのちを守る基金」という、生活保護利用の困難な外国籍子育て世帯向けの緊急支援を始めました。第一弾を終え、第二弾の実施に向けたクラウドファンディングを行っています。寄付という行動も社会を変えるアクションの一つです。ぜひご支援をご検討ください。


ひとりの市民としてできるソーシャルアクションとは?
ークロストークセッション

今の活動に至った背景

キョウ:会社に入ったとき、フィリピンのスモーキー・マウンテンを支援するNPOで、ボランティアをしていました。そのNPOのスタディーツアーでフィリピンに行ったとき、LIPの理事もそのツアーに参加していて。そのときにLIPのことや、NPOの一員として事業を創ることのできる場所があると知り、2015年にLIPに入りました。

また、自分自身が当事者として「入居差別をなくしたい」とずっと思っていたので、LIFULLに入って社会課題解決の新規事業を2016年に立案しました。それが今LIFULL HOME’SのSDGs事業として成り立っています。

小澤:山梨の田舎出身で、人よりも虫や動物や木の方が多い中で育ったことが背景にあります。森ではそれぞれが存在しながら補い合っています。でも、その中で毛虫という理由だけで、人に毛虫が踏みつぶされることに衝撃を受けました。

その後、戦争関係のアニメや映画を見て、自然に対してしていることが、人の世界でも起こっていると知り、「どうしてこんなことが起こるのか」と思うようになりました。「どうして同じ地球に生きていて、たまたま生まれた場所が違うだけで、こんなにも環境が変わってしまうのだろう」と子どもの頃から感じていました。

中里:LIPに入った経緯は、本当に偶然ですね。「少し社会科見学をしてみようかな」くらいの気持ちで、NPOのミーティングに入ったら、深夜になってもメール上での熱い議論が延々と続いて終わらないということがあって。「その雰囲気って何だろう」と思ったのが、最初のきっかけです。

それと、今もそうですが、LIPはフラットでした。僕自身、何らスキルを持っていない中で、対等に扱ってもらえた経験がすごく大きかったです。対等に扱ってもらえる場所に出会えたことが、自分を次のステップに押し上げてくれる力になったのだろうなと思いますね。

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活動する中で感じた市民の力

キョウ:アクティボ(activo)というボランティアサイトで、1年前くらいからLIPの掲載を始めたら、ボランティアをする人がすごく増えました。いろんな人がフラットにLIPの見学に来てくれるようになったんです。見学者も2倍以上になったのではないかと思います。

それは、活動に興味関心があって「自分も何かやってみよう」と思う方々が増えているということだと思います。ボランティアの皆さんのおかげで、LIPの事業も広がってきていると感じます。

中里:コロナの影響で、全てのミーティングをオンラインでするようになったことで、今までだとオフィスに来るのが難しかった方が、LIPに入ってきてくださって。子育てをしていて、その経験や思いを行動に移したいという方も随分増えました。議論の豊かさが変わり、とても大きな変化を感じています。

また、子どもに関わるお兄さん、お姉さんの関係は、仕事として関わるという文脈では、できないことの一つだと思っていて。でも、すごく大事なことですよね。同じことを子どもに言うとしても、伝わり方が全然違う。それは市民の力の一つなのだろうなと思います。

小澤:PIECESでは「この地球をともにしていて、何かが起こったときに、それを見つめて受け取り、働きかける人たち」を市民と言っています。私はひとりの市民でもあり、専門職としてもトラウマケアに従事しています。心に傷がついて、専門的なケアが必要になったとき、日常の安全がすごく大事です。

その安全を作っているのは、地域に暮らす人々です。専門機関の関わりは、どうしても終わりがありますが、地域の人との関わりは終わりがなく、自分でどうしたいかを関わりの中で選んでいけるのではないかと思うのです。

また、間接的な関わりも含め、誰が制度を必要としているかに気付いたり、実際に制度が地域の中で実践されていったりするのにも、市民の力が必要です。

ソーシャルアクションの一歩目

キョウ:生活の中で当たり前になっているものに、誰かが困っていないかと考えてみる。それがソーシャルアクションの一歩目ではないかと思います。そのことが、次にどうしたら良いかにつながっていくと思います。

小澤:他者のことを想像する力でもあるのだろうなと思いました。知らないことがあることを知りながら、人と出会うことが、さらに想像力を耕すのだろうなと。

キョウ:「出会いに行く」ことも大事だと思います。実際に出会いに行くことで、その人の困りごとについての想像がどんどん広がって、何が必要かを考えることができると思います。フィリピンのスモーキー・マウンテンに行かなければ、LIPを知ることはなかったと思います。


小澤:子どもたちは時に出会いに行かないと出会えないことがあるなと思いました。小さければ小さいほど、子どもたちは周りの大人を介して社会につながっています。出会いに行って初めて、解像度高く、その子の生活の実態を知ることができると思いました。

中里:第一歩はおそらくそれぞれ違うものとして、全ての人の身近なところにあるはずですよね。

LIPではいろんなメンバーとの出会いが、「こういうことができるな」と気づいたり、自分になかった視点を与えてもらったりするきっかけになります。その中で、チームで問題解決の方法を考える循環が生まれてくると思います。

だから、出会いがおそらく出発点だと思います。そしてその出会いに、心地良さと感じたり、ワクワクしたりすることが、一歩目を踏み出す大事なサインじゃないかと思います。

小澤:出会いによる面白さの中に、自分が持っていないメガネを知れることがあると思います。それで、気づきのポイントが増えていくことはありそうだなと思いました。

周りで起こっている出来事に関心を向けて、私の範囲がどんどん広がっていくと、自分の日常や、海外などの遠くだと思っていた日常にも、アクセスできるようになるのかなと感じました。

ソーシャルアクションの一歩目のかけらは、日常の中にたくさん見つかると思います。寄付をすること、周りの出来事に関心を持って発信をすることなども、できることの一つです。

中里:それぞれの立場から、問題をマクロの視点で捉える、また身近なところからミクロの視点で捉えるという仕方があって。ソーシャルアクションの起こし方は、ひとりの人の中でも固定したものではないですよね。

小澤:大きな制度にはたらきかけていくアクションから、日常をつくっていくアクションまで、どれもが必要で。ミクロとマクロを行き来できることが、すごく大事なことだと思います。

キョウ:自分の中で生まれた問題意識に目を向けるだけでも、それはソーシャルアクションだと私は思っています。

一方で、日常ではカバーしきれない、制度からこぼれ落ちてしまう人たちがいます。そのことを知っても、自分とのつながりを感じづらいこと、その人たちの立場に立って想像してみることの難しさは、往々にしてあるなと思って。

社会から取り残されている人たちがいることをちゃんと認識して、そこに対してアクションを起こすために、価値観を変えていくことも、もしかしたら必要なのかなと思っています。


ソーシャルアクションの一歩目は、私たちの日常の中にあります。

困っている人がいないか想像してみること、自分から人に出会いに行くこと、寄付をしてみること、周りの出来事に関心を持って発信すること、社会問題に目を向けることなど、私たちができることはたくさんあります。

ひとりの市民として、自分にできることを探してみること。そのことが、日常の安全を紡ぎ、子どもたちの暮らす社会が、より良い場所になることへつながっていきます。あなたの小さな一歩が、社会にとって大きな一歩になります。


今回の対談が、あなたの背中をそっと押し、新たな一歩を応援するきっかけになることを願っています。

2021.04.12
執筆:麓 加誉子・田中 美奈

Facebookライブレポート~共にいることで紡ぐ優しい間を考える~ CforCプログラム受講生対談

PIECESは、子どもたちの生きる地域に「優しい間(ま)」を増やすことを目的に、Citizenship for Childrenという市民性を醸成するプログラムの全国展開を目指しています。

12月7日(月)夜にFacebookライブを開催しました。テーマは「~共にいることで紡ぐ優しい間を考える~」
子どもが孤立しない地域をつくる「Citizenship for Children」プログラム2020の現役受講生にプログラムの意義や実際に受けてみての実感を話していただく初めての機会。その配信の様子をレポートにしましたので、ぜひご覧ください。

登壇者紹介
●松友萌 さん(めぐ)/Citizenship for Children2020探究コース 奈良クラス
●山端聡 さん(やまちゃん)/Citizenship for Children2020探究コース 奈良クラス
●榎本八千代 さん(やちさん)/Citizenship for Children2020探究コース 一般クラス
●瀬戸久美子/PIECESスタッフ Citizenship for Children2020 奈良クラス担当

~共にいることで紡ぐ優しい間を考える~

Citizenship for Childrenプログラム受講生の声

私たちPIECESは、子どもと寄り添う大人の市民性を醸成する「Citizenship for Children(CforC)」プログラムを実施しています。
専門職でなくても、日常の大人たちが「信頼できる他者」として子どもたちと出会い、孤立した子どもたちの日常に寄り添うことができるように、子ども関わる基礎を学んだり、子どもとの関わりを見つめなおしたりするプログラムです。

「孤立」という問題を抱える子ども達にどのよう寄り添い、どのようなプログラムを届けているのか。
どのように様々な地域、機関、人と連携しながら活動を広げているのか。
なかなか文章ではお伝えしきれない、一つ一つのストーリーを紐解きながらPIECESが大切にしている想いをお話し、改めて「いま、私たちにできること」を見つけ、深めていきました。

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プログラムに参加したきっかけを教えてください

ヤチさん

PIECESは1年くらい前から知っていました。今まで私が知っていたNPOなどは、子どもを直接支援しているような活動をしていたのですが、その周りにいる大人や場づくりをメインに取り組んでいる団体に会うのが初めてでした。

活動報告会に参加したときに、実際話を聞いている間もきちんとお話をしてくれたり、一人一人に「お名前を教えてください」と代表のいぶきさんが言ってくださったりして、人間的に好きだなという印象がありました。そう思っていた頃に、このプログラムの募集があり、一歩踏み出そうと思い申し込みました。

 

めぐさん

PIECESは2,3年前からSNSなどで拝見していて。当時勤めていた会社に、18才の男の子でもうすぐ卒業になるけど、この後どう支援しようということでいき詰まっていました。彼がつながる居場所があったらいいんじゃないかなと思ったときに、優しい「間」という場づくりをしているPIECESさんがすごく素敵だなと思って。

講座を受けていく中で、もっと願いを叶えてあげたかったけど、叶えられなかったと私が思っている子達が、居場所を作って待っていたら、もしかしたら会えるかもしれないと。関わることで、何か彼らのお手伝いをしたいというのが私の願いで、だからCforCに参加したんだろうなと思っています。

やまちゃん

知り合いから、CforCという講座があるよと教えてもらったのですが、僕が関わっている分野というのは、高齢者の分野で。そこを中心に「どうやったらより健康的になっていけるか」とかを考えて活動している中で、子どもへの関わりというのは自分の子どもしかなくて。

地域福祉という分野に関わる中で、孤立した子どもと関わりを持ったり、(そのような子どもたちに出会った時に)どのような対応をしたらいいのか、地域全体の課題として捉えたいなと思って参加しました。

 

受講した4ヶ月で変化したことはありますか?

ヤチさん

印象に残っていることでいうと、リフレクションからお伝えできれば。自分の行動を振り返るリフレクションをしていくとき、1人でまず(ワークシートに記入)して、その後いろんな人からフィードバックや質問をもらって進めていくんです。

その中で考え方が一人一人違うこともわかるし、自分自身でも気づかなかったことを気づけたのはとっても印象的でした。例えば、今の自分の価値観ではなく、昔の価値観に基づいて「私はこういうふうに考えていたんだ」と気づく時があり、結構衝撃的でした。

具体的には、今は自分を大切にしてくれない人や苦手な人とは距離をおくという価値観に基づいていますが、リフレクションをしてみると、子どもと関わっているときにはその考えが飛んでしまっていることに気づくとか。昔の価値観に基づいていたんだということに気づいて、それがすごく印象的でした。

 やまちゃん

僕の場合、リフレクションをするときに、普段は同じ専門職ですることが多いのですが、CforCは年代や仕事が異なっている人とリフレクションをするのが新鮮というか。専門職ではない視点に気づけるというのは印象に残っています。

あと、直接の対話の方が深みというのはありますが、今回はCforCでzoomを使って対話をしていてもあまり違和感がなかったというか。すぐに馴染めるという不思議な感覚というのもありました。

 

周りにいる子どもや地域の人とのかかりや「間」で気づきはありますか?

めぐさん

今までの価値観として、子どもを傷つけたくないから、危険な行動をしていたら止めたり、守らなきゃという気持ちが先行していました。でも、「守らなきゃ」というのは私の願いで、こどもは本当は何がしたかったんだろうと。

見て欲しかったのかな、体を動かしたかったのかなとか、間を置いて考えることができるようになりました。危険な遊びをしていて、体を動かしたい子だったら、「じゃあこれ飛んでごらんよ」と関わり方も変容してきました。

具体的には、机から飛び降りる子がいたときに、「バランスボールの上で飛んだらどうかな?」と提案して、私が必死にバランスボールを抑えながら、その子がぴょんぴょんはねるみたいな。そしたら、体を動かせて楽しそうだし、その後も落ち着いて授業を受けていて、(優しい「間」というのは)そういうことなのかなと関わっています。

 

やまちゃん

このプログラムに関わりを持ち始めてから、どうやったら関われるかなという視点で見ているからか、障害を抱えた子の親のから、子どもの将来の不安とか相談も受けるようにもなって。

実際にその方も看護師なんですけど、将来の就労支援とか、離職しないような働き方とかを話すようになったりとか。子どもを担当してる、行政の保健師さんとか福祉担当の方とかとも、やっぱり僕らの村の現状みたいなことを話しようにもなりました。子どもとの間を作るみたいな心の変化というのは感じています

 

講座で印象的だったことを教えてください

やちさん

「待つ」という姿勢については、プレーパークを運営しているかんぺーさんから学んだことです。私が(かんぺーさんと)同じような立場だったら、絶対先回りして行動しちゃう。例えば、「これこのままやったら、ちょっと二者間の間が悪くなるんじゃないか」というときでも、かんぺーさんは子どもたちの能力とかを信じて待ってらっしゃると思うんですよね。そういった姿とかお話を聞いて、そこがすごい学びになりました。

あとは最近だと田北さんの講座で「人ばかり見ているんじゃないか」っていう言葉があって。人ばかりにフォーカスを当てるのではなく、場というものにフォーカスを当てたら(いいかもしれない)、と思った。

例えばでいうと、自分の家に柿の木があって、秋になるごとに柿を100個くらいおじいちゃんおばあちゃんがもいでいるのですが、その姿もまちに溶け込んでいると思うんですよね。もいだ柿をご近所に配るのですが、これもまちづくりの1つだし、優しい間の一つでもあるのかなあなんて思って。自分的には新しい見方だなと思ってかなり衝撃的でした。

 

 めぐ

一番印象に残っているのが山下さんの講座。講座の最後の方で、「心で応えた答えは、たとえ間違っていても優しい答えになるよ」っていう言葉をくださって。それに対して、「優しい答えってどういうことですか」と私が聞いて。

半年間不登校だった子が「学校行きたい」と伝えてくれた時に、山下さんが「本当は半年間も、もしかしたら言いたかったのかもしれないのに、私が余計な事言っちゃって、本当の気持ちを聞けなくてごめんね、とまず思う」ということだったり、「これを言うまできっと、心配だったり、緊張したよね」と答えているという言葉を聞いて。「心で答えていいんだ」って気づきになりました。

子どもが何か SOS とか助けてって言った時に、私はすぐに支援をしようとか、どうすればいいんだろうと思考していたんです。でも、まずは気持ちで応えて「言ってくれたんだね、きっと緊張したよね」という関わり、あり方でいいんだなというのが気づきだったし、それが今の子ども達の関わりに生きてる気がしてます。

 

CforCでいろんな価値観やバックグランドを持った人と関わることで、面白さや価値観が広がる感じはありますか

ヤチさん

違う意見を聞いても否定されたように感じなくなった。CforCで、本当にいろんな人の意見を聞くんです。私も自分の意見を言うんですけど、基本的に否定されないんですよね。その考え方いいね、と一旦受け止めてくれる、みんなそういう心づもりができている方なんですよね。

初回にzoomを通して皆さんと会った時も、「自分の居場所だ」って思っちゃって。講座とかゼミとかリフレクションに参加するのが、生きがいみたいな感じなんですけど。それぐらい多様性があるけれど、みんなその多様性を受け入れることができる土盤がある人たちなんだなと思います。

山ちゃん

僕の場合、CforCに関われない時もあったんですけど。同じ目的を持った集まりというか、将来的なビジョン的も共通する点がある。そういった点で参加できない時でも、自然とフォローアップしてくれたりとか。それが参加できないことに対する罪悪感が解消するような感じもあり、すごく助かってます。

 

CforCでの学びや経験を、どんなふうに生かしていきたいですか

めぐ

二つあって。気持ちの面で言うと、自分のことも大事にして、目の前の人も大事にしたい。子どもに対しても、他の人に対しても、「なんとかしなきゃ」、「質問してくれたんだから期待に応えなきゃ」とか。子どもに対しても、「SOSを出してくれたんだから頑張って応えなきゃ」みたいなところがあって。 

自分の願いと相手の願いがごちゃごちゃになってしまうのが今までだったんですけど、CforCを通して、その両方の観点を大事にして、結局どうしたいのか、と。子どもに対しても、周りの大人に対しても、誠実にどっちも大切にしたい。

もう一つは私自身がどうしたいのかという時に、誰かをつなぐような仕事ができたらいいなということに気付けて。社会資源に繋ぐというお話を聞いて、勉強したいと思い、大学にもう1回行きなおす決断ができたので、それも頑張っていきたいです。

 

山ちゃん

僕は村という人間関係の強い地域で活動しているので、孤立に当たるような、虐待とかいじめとかいうのは、あまり聞かなくて。ただちょっと気になるのが、障害があるかもしれない方っていうのは目につくのですが、例えば保護者にとってもやっぱりなかなかの表に出してこない。 

弱った姿を他人に見せたくない、みたいなことが多かったりするので、それってやっぱり生きづらいというか。「もっと他の人に頼ればいいのにな」とか思っちゃうので。これからどうやっていくかみたいなところも含めて考えていきたい。

 

ヤチさん

親子とか兄弟とか親戚とかそういった血の繋がりとか関係なく、子どもの居場所を作りたいと昔から思っていたんですね。どのようにやるかはまだ模索中なんですが、CforCで学んだことだと、自分のウェルビーイングと目の前の相手のウェルビーイングどっちも大切に生きていきたいなっていうのもあります。

もう一点は、自分の考えとか行動を俯瞰的に見るというか、それもウェルビーイングに繋がると思ってるので。そういったことを振り返りながら、過去これやったなって事を相対的に俯瞰的に見ることに繋げて、また将来やりたいことに繋がってきたらいいなと思ってます。




12月20日までに100人の新たなPIECESメイト(マンスリーサポーター)を募る寄付キャンペーンを実施中

来年以降も子どもたちの周りに信頼できる他者を増やす取り組みを継続・発展させていくために、ぜひPIECESメイトになって共に歩みを進めてくださいませんか?

目標:100名
12/19 現在:34名(単発でのご寄付33名)


Facebookライブレポート~子どもが孤立しない地域をつくる「市民性」を紐解く~

PIECESが考える「市民性」。
それは、子どもが孤立しない地域をつくる、誰も孤立させない社会をつくる一つのキーだと考えています。

11月30日(月)夜にFacebookライブを開催しました。テーマは「子どもが孤立しない地域をつくる「市民性」を紐解く」。夜遅い時間ではありましたが、多くの方に視聴していただきました。
「Citizenship for Children」プログラム2020の企画運営を担う、PIECESスタッフによる「市民性」をテーマにしたトーク。その配信の様子をレポートにしましたので、ぜひご覧ください。

登壇者紹介
●青木翔子/PIECES理事・リサーチャー、ファシリテーター
●若林碧子/広報ファンドレイズ・旧コニュニティユースワーカー(現CforC)4期生
●佐藤麻衣/CforC運営スタッフ(探究コース、基礎知識コース)
●栗野紗也華/CforC運営スタッフ(探究コース、プロジェクトコース)

~子どもが孤立しない地域をつくる「市民性」を紐解く~

▶︎ PIECESが考える「市民性」とは 

まずトークセッションに入る前にPIECESが考える市民性について青木より説明しました。

何のためにPIECESは市民性を醸成するか

PIECESでは、わたしたち人と人との間に、「優しい間」を生むことを大切に、頼り頼られることを大切にしています。相手への思いやり、想像力、相手を尊重しあうコミュニケーションをしていった先に、優しい間が人と人との間に生まれて、頼り頼られることができて心が孤立しにくくなるのではと思っています。

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心の孤立という問題が起きている社会は、誰かに頼ることができないということがあると、自分を大切にする経験ができず、自分のことを大切にされたことがないと、自分のことも大切にできず、相手のことも大切に想うことができなかったりします。

そうすると心の孤立も負のループのようなものが出来ますが、優しい間を経験することによって何かあった時に誰かに頼ったり、お互いに助け合える経験をすると自分を大切にしていいんだ、自分を大切にするってこういうことなんだ、という経験をすると、自分も相手も大事に出来ていく、そんな優しい間が溢れていく良い循環が生まれていくのではと思っています。

孤立した子どもたちの周りに優しい間があふれていくと、子どもたちが育つ社会、未来が変わっていく、孤立しなくてもすむ社会になるんじゃないかな。と思っています。


「子どもと関わる市民」の専門性とは、目の前の子どものプロになること

そこで優しい間が紡ぐのが市民性ですが、いろんな角度から説明してみます。

例えば専門性と対比してみると、どうか。市民が出来ることって専門家ではないけれども、ある種の市民としてのスキル、専門性というプロフェッショナルみたいなものはある。また、専門家ができないところを担っていくっていうところがあるのではないか。

市民の専門性ってなんだろう。

PIECESでは、「子どもと関わる市民」の専門性とは、目の前の子どものプロになることで、専門家は専門家としての役割の中で子どもと関わったりすることがあります。

私たち市民は、自分の名前で自分として関わっていくことがある、だからこそ専門家は役割の範囲も決まっている、市民は役割の範囲が不明確。専門家は子どもたちの抱えている困りごとや課題、リスク、そしてそれが起きている背景というものに目を向けて解決していくプロフェッショナル。市民はそういった専門性はないけれどもその子を見つめていく、その子のキャパシティやストレングスに目を向けていくプロになっていくことができる。市民としての関わり方は、楽しさ・遊びを大事にできるのではないかと思います。


子どもと関わる市民の役割

地域の中で見ていったときに、「余白」が地域の中に生まれている、足りない部分を柔軟に埋めていく役割、資源と資源を繋げたりする役割だったり、余白を作っていく、というようなことが出来るんじゃないか。そういった市民に求められるものは何かというと、人と人との関わりなので、もちろんスキルみたいなものもありますが、わたしたちが持っている価値観やまなざしというところがそのまま活動に出ていく、出ていっていい、本当に色んな人がいて、正しい市民性があるわけではない。私自身でいることが市民性で、私自身の価値観、まなざし自体が大事なんじゃないか。と思っています。

PIECESが子どもと関わるときに大事にしたい市民性というのは、子ども自身にとって市民というものがどういう役割を果たしていくのか、子ども視点のものと、自分視点で自分として何がしたいか、何が出来るか、何が楽しいと思うか、両方を大事にする。自分のやりたいことを子どもに押し付けても良くないですし、課題を解決しなきゃとそこにフォーカスしすぎて自分をないがしろにするというわけでもない。その間をちゃんと作っていける、それはすごく難しいこととは思うので、そこを市民性醸成プログラムの中で考えていくことをしています。

 

優しい間のための市民性とは

優しい間のための市民性について3つの大事なステップをお伝えします。

みつめる・・・自分自身の感情や、目の前にいる相手の言葉や表情、自分の暮らす地域、社会が起きている事件や紛争、気候変動だったり、そういったところにもみつめていく、自分として生きていくことが市民性でもあると思うので、そういうところを見つめていきます。 

うけとる・・・みつめて、見過ごすのではなく、その現実の中に今までは見過ごしていたメッセージがあるかもしれないので、そういうところをきちんと受け取っていく。例えば子どもの話で言うと、目の前にいる子どものふとしたときに見せる表情や行動、些細な部分も受け取っていきます。

 はたらきかける・・・新しいメッセージを受け取った一人ひとり私たちがどうしていこうか、社会の中でどうしていくのか、どうしたいのか、社会がどうなっていったらいいのか、一人ひとり考えて、身近な人とのコミュニケーションも、地域コミュニティに参加していくこと、職業、消費活動、政治参加など、いろいろなレイヤーで活動していく。


▶市民性について4人でトークセッションtime

ここからは4名のトークセッションに入っていきます。

・PIECESにジョインした理由やPIECEに共感した点を教えてください

栗野:2020年7月からジョインしました。今までPIECESへの接点が何かしたらあったわけではないので今、市民性醸成プログラムを運営しながら自分も考えながらやっているところです。市民性という言葉を最初に見た時に、すごいな、って単純に思った。今までNPOに関わってきたけど、PIECESのやっていることは直接子どもに関わる支援ではない。直接関わる支援は時にはしんどさにも繋がるな、と実体験や実施に見てきて感じていて、ボランティアの人が疲弊していく姿も見てきた。そこだけだと持続可能ではないな、といつも思っていた。自分が他のNPOとかでもインターン生、ボランティアが来た時はどうやったら持続可能になるかを考えていた。PIECESの市民性という言葉に惹かれた理由として「優しい間」も含めて、私とあなたの関係性というのがあるんだろうな、と思っています。その支援をする、されるではない、私とあなたどちらも心地良い空間でいましょうというこは、支援してあげる、支援してあげようという専門職らしい関わり方もあるけれど、それではたぶん持続可能じゃないなと思ったときに、自分も楽しい、楽しさでつながることを大事にする、相手と一緒にそこの空間を作っていくことにすごくひかれたし、そこが市民性だったり、PIECESらしさの間なのではないかとここ数か月で思うようになった。

 

佐藤:私も同じく2020年7月からジョインしました。PIECESを知ったきっかけとしては数年前からFacebookをフォローしていて記事を見ていたけれど、活動に参加したことはなかった。タイミング良く説明会を聞いたのをきっかけにジョインし、現在市民性醸成プログラムのスタッフをしています。自分として生きていくこと、私自身として生きていくことの大切さをプログラムから感じているところです。プログラム参加者も私自身でいられるように、自分と目の前に子どもとどう向き合っていくかという話もたくさん聞いていて、このプログラムを体感しないとわからないこともあるなと思っています。運営側ではあるけれども日々学びながら私自身もどうしたいんだろうと考えています。

 

・理事の青木自身が思う「市民性」はありますか。

青木:PIECESと自分が混ざっているので、難しい。私自身と問われると、まだまだ発揮できてないところもたくさんあるな、と悩むところです。やれることいっぱいあるけど、だからこそ何していいんだろう、どこまで忙しい日々の中でどこやっていこう、なにをしていこうというのは私自身も考えます。

市民性醸成プログラムの卒業生の立場から現在PIECESスタッフをしていますが、なにか日々実践していることなど具体的にありますか。

若林:先ほど青木から話があった「みつめる、うけとる、はたらきかける」のはたらきかけるにはたくさんのレイヤーがあって、自分ができないことへのしんどさも感じるし、自分ができないことが目についていたけど、見過ごしてしまったこと、アクションできなかったことが日々起きた時にすごくモヤっとすることがあります。その先を考える視点というのはPIECESで得られたなと思っています。

・市民性醸成プログラムを通じて見えた市民性の発揮とは

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青木:市民性醸成はいくつかのレイヤーがあるという話が出ていて、4象限で整理してみました(図を参照)。縦が継続的か断続的か、横が組織(仕事)または個人(プライベート/地域)で活動に分けた時に組織で継続的にすることは仕事や、社会に対して働きかけるなどの色んな仕事が含まれています。組織で断続的に行うことは、単発のプロジェクトのようなものや、さらには組織での人間関係の向上、これは優しい間を表している。個人で継続的に行うことは子ども食堂などをライフワークとして活動することやボランティアとして参加することが入るが、この部分を市民性やボランティアということが多いが、実は個人で断続的に行うことが大切だと思っていて、これは勇気がいる市民性の発揮になると思っています。

・個人で断続的に行うこととは

青木:例えば公園で子どもに叩いている保護者をみたときに「どうしたんですか」、「一緒に遊びましょう」と声をかけてみる、ということはなかなか出来なかったりする。子どもが万引きしているところを見たり、動物をいじめているところを見つけたら、危ない子として子どもを怒るのではなく、その子の背景にはなにか逆境体験があったりするかもしれないと考え「どうしたの?」と声をかけて、その子の安全を確保することを考える。そのような突発的に起こった時の市民性発揮やその場で生まれた何かに対してアクションするということはそのメッセージをうけとめてはたらきかけることを行う。とても難しいことだけど、大事で、それを一人ひとりにゆだねるのもゆだねるですごく難しいからこそ、PIECESというフィルターを通して知り合った皆さんと共有し合ったりして、「こういう行動してみたよ」、「こんなことあったんだ、どう思う?」ということをみんなでシェアしていく。そのような市民性を発揮していくようなことができたらいいなと思っています。

栗野:市民性の発揮の仕方は人それぞれだけど、なにかすごく大きいことに見えてしまう人もいるんだろうなと思っていて、みこりんが書いたnoteがすごく好きで、市民性っぽいなと思っている。

若林:補足をすると、見過ごしてしまうとか、見て見ぬふりしてしまうとかあるけれど、見て見ぬふりが出来なかったことの話をnoteに書きました。

- みこりんのnote 山手線で500円玉を手渡したあの日のこと

青木:PIECESの市民性醸成プログラムでは、すごく感情やその場で感じたことをすごく大事にする、今どう感じているか何をしたいと思うか、みたいなことを大事にする。今のみこりんの話って通ずると思っていて、最近「後ろめたさの人類学」という本を読んだのですが、途上国の物乞いの人たちにお金を渡す場面って、私たちは何を渡すに対して、物乞いの人に対して後ろめたさを感じることがあるかもしれないけど、資本主義経済においてはお金を渡すことは違うので見なかったことにする、論理でその感情を見ないフリをすることが起こっているんじゃないかと書かれていた。それはそうだなと思っていて、活動したり、日々生きている感情に素直になってみるということがみつめて、うけとっていくになるのではないか、と個人的に思っている。ただそれに行動できるかというのはまた別なので、みんなでエンパワメントしながらやっていけたらいいんじゃないかと思いますね。


・市民性が広がった世界とは

青木:市民性って誰かの話じゃない、子どもや虐待などそういう子に関わることっていうのは私自身、私が関わっていいんだろうか、難しいなとか、上手い下手があるんじゃないかとか思っていた。今のPIECESのメンバーとか、色んな人と話していくなかで子どものことを考える、トラウマなど心をケアする部分は専門性が必要だし、大事で、専門家の方々と一緒にやっていきたいし、その部分も大事だけど、私もやりたいと思った想いや考えたことは無駄じゃないし、そう思ったことを共有してじゃあ何かやれることをやってみようと言って重ねていった先に、私自身の幸せもあるし、社会と私が分断しているわけではなくて、きっと同じものだから、私が良いと思う社会を私が実行していくことできっとその社会も良くなっていくんじゃないかと思ってこのプログラムをはじめてみると、色んな方が賛同してくれて、集まってくれて、こんな心強いことはないと本当に思っていて、毎年キャパの問題で市民性醸成プログラムの参加人数を少なくしていて、本来はたくさんの人とシェアしたいし、個人的にはこのプログラム以外にも、先ほど話していた日常で市民性を突発的に断続的に発揮していくというのをシェアし合う、増やしていく何かしらの仕掛けをPIECESでできたらなと思っています。

みなさん、PIECESメイトになるということはその第一歩な気がしていて、PIECESメイトになってシェア会みたいなもので最近感じていることとか、お互いにシェアしたり、話したりするんですけど、その時に普段話せなかったのにPIECESメイトの会だと話せたという話があって、そういうことを良いと思っている、こういうことをしたいと思っている人たちが集まって話したら、心地が良いしゃべりも出来るなと思ってまずそういうところに参加して、考えて何かやってみる、そういう小さな積み重ねにきっと意味があると思っています。もしよければキャンペーンの機会にPIECESメイトになっていただけたら嬉しいです。


12月20日までに100人の新たなPIECESメイト(マンスリーサポーター)を募る寄付キャンペーンを実施中

来年以降も子どもたちの周りに信頼できる他者を増やす取り組みを継続・発展させていくために、ぜひPIECESメイトになって共に歩みを進めてくださいませんか?

目標:100名
12/7 現在:11名(単発でのご寄付16名)


イベントレポート|PeaceDay2020~4団体合同企画~私たちそれぞれの「Piece for Peace」を見つけるために

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9月21日はPeace Day。国連で定められた平和を祈念し推進する記念日、国際平和デー。非暴力と停戦の日です。

この日、私たち一人ひとりが平和に向けた大切な存在であることを考えるきっかけになればと、国内外で子どもたち、若者たちの課題に向き合う4団体、NPO法人JIM-NET、認定NPO法人国境なき子どもたち、認定NPO法人REALs(旧:日本紛争予防センター)、認定NPO法人PIECESの合同オンラインイベントを開催しました。

後半のクロストークでは、ファシリテーターにNPO法人Dialog for Peopleの佐藤慧さんを迎えて、世界で起こる出来事や課題を自分事として手繰り寄せ、自分にできることを見つけて、深めていきました。

 —-
・オープニング
・団体紹介と子どもたちの声の紹介
・4団体によるクロストーク
・クロージング
—-

#こどもとピース

クロストークに先立ち、各団体が活動の中で出会った子どもたちの声を紹介しました。

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◆イラクにおける小児がん患者の子どもたち、シリア避難民に対し医療支援などを行っている、NPO法人JIM-NETの牧野アンドレさんより

「すべての子どもたちが平和に暮らせる場所を作って」

ハルウェストくん。14歳。イラク・エルビル出身。小児がんサバイバー

「大切なもの:シリアで暮らしていた時にお兄さんが買ってプレゼントしてくれたお人形。ボロボロになってしまったけれど、服も髪も自分で直したんだ。これからもずっと一緒にいるよ」

ロウディクちゃん。13歳。シリア・ハサカ出身。現在イラク・ダラシャクラン難民キャンプ在住


◆日本の子どもたちや社会のWell-beingのために市民性醸成を行う、認定NPO法人PIECESの小澤いぶきさんより

「学校の大人がルールを決めるんじゃなくて、ほんとうはみんなで話し合って決めたい」

なつ。6歳。日本

「大切なもの:いろんなノート。ノートがあれば絵を描いたり、大切なことを書いておけるから」

すみれ。10歳。東京


◆アジア、アフリカ、中東地域でテロや紛争を予防し、人と人が共存できる社会作りを行う、認定NPO法人REALs(Reach Alternatives)(旧:日本紛争予防センター/JCCP)の瀬谷ルミ子さん

「好きなこと:音楽、楽器演奏、サッカー、将来はサッカーコーチになりたい。
大人にいいたいこと:子どもたちの考えをわかっていると決めつけて話を聞いてくれないことがある。でもぼくのお母さんは話を聞いてくれて苦しい時に助けてくれた。他の親たちも自分の子どもにそうしてあげたらいいと思う」

イーサン。14歳。ケニア

 

◆途上国のストリートチルドレン支援や紛争の被害にあった子どもたちへの教育事業などを行う、認定NPO法人国境なき子どもたちの松永晴子さんより

「大切なもの:遊ぶこと、笑うこと、学校、私の家族。
 大人に言いたいこと:学校の先生に私が先生のことが好きだと。家族に私が家族のことを好きだと。シリアの親族に私がヨルダンを好きだと」

マルワ。8年生。ザアタリ難民キャンプ


あなたの手の中のPieceはなに?思いと気づきを深めるクロストーク

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~コロナ禍の活動の困難と壁

佐藤さん:どこの現場に行っても感じるのは、そこの子どもたちが社会の尺度や鏡になっているなあということです。子どもたちがどういう状況に置かれているのか、どういう目をしているのか、どういう夢を持っているのか、どういう夢を描けないのか。そういったことに社会が映し出されると思っています。

子どもは「未完成な大人」ではないのですよね。子どもたちは独立した人格と尊重されるべき立場です。国や地域、文化を超えてそれぞれの素晴らしさを持っています。大人たちが見逃してしまう疑問や世界の美しさに気づくことができて、それを遊びとして表現できるのが子どもたちです。

日本国内外でそれぞれの土地の子どもたちと関わり続けてきた皆さんですが、このコロナ禍で、皆さんの活動にも壁を感じられることはあったでしょうか。どんな難しさがあるのでしょうか。

 

いぶきさん:みんな同じ状況にいるように見えて、生活環境などを要因に実は全く違う体験が生まれているなと感じます。家や家庭が安全でない若者たちがいます。ネットカフェが居場所だったのに、コロナで閉鎖されたり利用制限がかかったりして、居場所がなくなってしまうなど、ステイホームという言葉がとてもしんどい子どもたちがたくさんいます。

また、学校が休校になっている中でオンライン学習が広がっていますまた、、タブレットが家にない、Wi-Fi環境がない、そもそも保護者がそういう情報にアクセスするのが難しいなど、一定数の子どもたちが取り残されやすくなっています。

児童養護施設の中では、外部からのボランティアさんが入ることで、ひととの関わりが生まれていたのですが、コロナ禍でボランティアの受け入れができなくなり、これまであった人と人としてのリアルな関わりが断たれるということも起こっています。

普段からあった生活のほころびや、社会の歪みが顕在化したなと感じます。

 

瀬谷さん:私たちの活動で感じる壁は大きく2つですね。1つ目がテロ組織の勧誘のリスクが高まっていること。このコロナ禍はもともと弱い立場のひとたちがさらに弱っている状態で心にすき間ができやすくなっています。

そこに、このコロナ禍は政府の陰謀だとか、このままでは君たちは救われないとか、我々と一緒に活動すれば救われるとかのテロ組織のうたい文句で勧誘されてしまう。勧誘されやすくなっています。

2つ目が児童婚。生活が困窮してしまう貧困層に多いのですが、女の子を嫁がせる代わりに、富裕層から金銭を受け取れるのでこのコロナ禍の困窮で増えています。小さい子で10歳とか10代半ばの女の子が、ときには60歳などのはるかに年上の男性と結婚させられてしまう。私たちの活動地域の多くで見られるほんとうに深刻な問題です。

児童婚を苦にして自殺してしまう女の子も出てきています。南スーダンなどの日々の食べるものにすら事欠くような地域でも、それよりも自殺を選ぶという女の子がいて、その深刻さが分かると思います。

 

牧野さん:私たちの活動は、小児がんに対するものとシリア難民に対するものと2つあるので、まず小児がんの方ですが、政府が移動制限を敷いたので、遠方から治療を受けに来ていた子どもたちが県境を越えられなくなる、受診できない、という問題が起きています。

なので、受診の特別許可を取ることができた患者さんに、自宅近くの地域の受診できない患者さんへ薬を託す、地域の病院でも治療を受けられるようにする、などの緊急対応を取っています。

シリア難民の問題では、失業が特に目立ちます。シリア難民のひとたちはイラクで働くことができるのですが、工事現場やレストランなどで働くひとが多く、コロナの影響でそういう現場や店が全部しまってしまい、職を失ってしまっています。

生活ができないので、まだまだ安定しないけれどシリアに戻る、と言うひとたちが特に5月や6月はよく見聞きしました。あるいはトルコを経由してヨーロッパを目指すという話もかなり見聞きします。

 

松永さん:アンマン市内はイラクでも日本でも同じだと思いますが、職を失うひとが多いです。ヨルダン人もそうなのですが、難民の方たちは日雇いの率も高く、工場やレストランが軒並み閉まっていく中で、ほんとうにお金が手に入らないという状況で過ごさねばならない家族の話をたくさん聞いています。

ヨルダンは徹底的なロックダウンを行ったので、文化的に男性が家の中で力を持っている地域なので、DVなどに直面した女性がSOSを出せない状況が発生しています。この期間中に自死される方のニュースがちらほら見られます。ヨルダンはもともと自死が多くない地域なので、状況の深刻さがわかります。

一方で、難民キャンプは、支援団体のキャンプ入構に制限がかかっていた時期もありました。入れない間に連絡を取ったら「いや、僕たちの生活、大して変わらないよ」なんて皮肉を込めて言われました。彼らはこういう不自由さを7年も8年も続けてきていたんだなあと改めて体感しました。

 

佐藤さん:こういう世界的に大きな出来事があって始めて自分事として考えられるということなのかなとお聞きして思いました。僕自身、ガザ地区の女の子と話をしていて、「Black Lives Matterとか世界中で人権のことが叫ばれているけど、そもそも私たちの人権には誰か目を向けてくれたの?」と聞かれたことがあります。 

そういう話を聞くたびに、僕らが日頃目にしているニュースは非常に偏っているのかもしれないなと思いますし、もっともっと現地のひとの声に耳を傾けていかないといけないなと痛感します。

 

~困難な環境と孤立、そしてケアの効力

佐藤さん:難民として暮らす子どもたちはなかなか難しい環境にあると思うのですが、孤立しがちな環境にいるということは、助け合いの意識が育っていくものなのか、孤立が進み、深まってしまうものなのか、どうお考えでしょうか?

 

牧野さん:一概には言えませんが、難民のひとたちはやはり故郷に戻りたい方が多いので、ここは自分の家ではないという言葉はよく聞きます。故郷を離れている状態が長期間に及ぶと、将来を見据える力や描くビジョンに強く影響するんだなあと感じることはよくあります。未来を希望と一緒に思い描くことが難しくなりますね。

 

瀬谷さん:最近の世界的な傾向ですが、一般的に想像するテントを張った難民キャンプが存在せず、都市に流入して廃墟や違法な住居などに暮らいわゆる都市難民が増えています。難民キャンプを作っても生活苦や治安の悪化やテロ組織の勧誘場所になってしまって外に出る人もいれば、そもそもキャンプの収容数が足りず入り切れなかったひとたちが知人などをを頼って都市へ流れ込む。

難民は一般的に、女性の世帯主が多い。トルコでは、お父さんがシリアの戦闘で亡くなってしまった、あるいはお父さんは本国に残してお母さんが多い時は10人の子どもを連れて難民として避難してきている。お母さんは忙しくて難民同士でもつながれない、トルコのコミュニティとは言葉の壁があって情報を得られない。

トルコ政府は、登録さえしていればシリア難民も支援してくれるのですが、言葉の壁で行政の難民登録手続きもままならない。私たちは手続きの通訳や翻訳、交通手段の提供などの支援で、これ以上孤立が深まらないように活動しています。

 

松永さん:子どもたちは良くも悪くも慣れてきますよね。彼らの日常はキャンプでの生活になってしまっています。ヨルダンとシリアの国境は2018年に開いているのですが、親がやっぱり帰れないという選択をして残っている子どもたちがたくさんいます。外への憧れがありつつ、故郷に帰りたいと言い続けているのに帰れない。子どもたちにとっては結構大きいショックであると私たちは感じています。

その中で、シリアに戻る選択をする家族もいて、学校でシリアに帰る子のお別れ会が開かれる時があります。そんな時、すごく羨ましそうな顔をする子がいたり、「うちのお母さん帰れないって言ってたもん」という子がいたり、帰る、帰らない、どちらの選択にも葛藤の重みや壁を感じます。

 

佐藤さん:結局、国って何だろう、故郷って何だろうという問いが余りにも置き去りにされたまま、ただニュースとしてだけ難民の方々が消費されていっているように思います。孤立の長期化という点で、子どもたちの孤独に親以外で最初に気づいてあげられるひとは誰だとお考えでしょうか?

いぶきさん:保育・教育機関や医療機関、地域のNPOや任意団体等の様々な場や人、コンビニやネットカフェなどの店員さんといったインフラになりつつある場、行政機関ですでにその家族に関わる人でしょうか?

まず、家族ごと孤立する場合、そこに接点がなくなる、あっても関わることが難しくなっている場合があります。特に、外部との接点が少なくなり、親密圏に誰も関わらず、かつ困難な状況が続くと、もともと親密圏にあった関係性の勾配や、潜んでいた暴力性が顕在化することがあります。また、困難を親密圏の中だけでなんとかすることは難しいことも多く、親密圏の中で疲弊していくけれど、誰かに頼るのが難しいことも起こることがあります。そのような中で例えば親密圏の中の暴力があっても、そこに誰も介入できなくなるということが起こります。 

このような状況の前に、何かあったら関われるような関係性が育まれていることも大事なのではないかと思います。

子どもが学校に通っているなら、学校の先生との良好なつながり。一方で、学校に通っていない子たちがとても取りこぼされやすくなります。

また、医療機関も家族と出会える場ですし、行政機関と繋がっている場合もあります。地域のNPOや団体が運営する場が大事な家以外の場所になっていることも少なくありません。

一人ひとりの地域に住んでいる市民という意味で、コンビニの店員さん、訪れたひと、それこそ電車で乗り合わせたひと、私たちですね。すれ違っているのに見ないことにしていないかとか、自分の目に映らないだけで、ほんとうはすぐ隣に孤独を抱えた子どもがいるのかもしれないということを意識し続けたいと思います。

松永さん:私たちは公立学校で授業をしています。学校には教育省の管轄でソーシャルアドバイザーなどカウンセラーのようなひとたちがいるのですが、私たちの授業を担当している先生のところに話に来てくれる子どもが結構います。子どもたちが打ち明けたいと思うには、絶妙な距離感が必要なのかなと思っています。

キャンプの中でも、20~23%の割合で働くなどして学校に来られない子どもたちがいます。そんな子と道端でばったり出会って、「なんかもう、家でも仕事場でもほんとうにたいへんなんだよ」という話を聞かせてもらったりもしています。

 

~活動の中で子どもたちからもらった宝物

佐藤さん:このメンバーで話しているとあっという間に時間が飛び去ってしまいますね。子どもたちというのは、僕ら自身がかつて見えていたけれど、今は見えなくなってしまったものを教えてくれる大切な存在で、僕らの誤りを気づかせてくれる存在ではないかなと思っています。現場での活動を通して、子どもたちからいただいた宝物を教えてください。

 

牧野さん:すべての活動を通して、人間って誰もが尊厳が大切なんだなということです。子どもたちのシリアに帰りたいという願いも、普段の会話に出てこない心の奥に持っているもので、それを共有してくれたということをとても大切に思います。おとな一人ひとりがもっと気づいてあげられるようになることも必要だなと気づかされました。

 

松永さん:子どもの時分にしなくても良いことをたくさん経験している子どもたちがいて、その気持ちを私も周りのおとなもどこまで理解できるんだろうと考えることがよくあります。でもこれって、子どもの頃の自分の想いとか記憶とかをきちんと心の引き出しにしまっておくのが大切なんだなと。

自分の気持ちとちゃんと向き合ってゆくことが、子どもたちの気持ちにも丁寧に向き合うことなんだなと改めて思いました。


瀬谷さん:紛争地には生きるか死ぬかの選択肢すらない人たちがいる。人生を自由に生きる権利を、紛争地のひとたちに増やしていきたいと願って活動しています。そして、自分の手の中にある人生の選択肢にも目を向けるようになりました。その時にしかできないことを、やるかやらないか。やらないのなら、選ばなかった選択肢は自分の決断であることを意識して、自分の人生にも社会の行く末にも責任を持つということを、日々教えてもらっています。

 

いぶきさん:3つあります。1つ目は、まだ見えてない人の、そして社会の痛みも可能性もあるということ。自分の価値観や経験で作られた「めがね」をわたしも持っています。それはとても大切なメガネでもあるけれど、自分のめがねで見たいように見たいものだけ見ていると、どもたちの感じていることや願いにはたどり着けないんだろうなと。そして、もしかしたら、見えない願いが気づかれず、見えていないことの痛みの上に、社会が成り立っていく可能性があるのだろうなと。子自分が見えている範囲に限界があり、見えていないけれど共に生きている、過ごしているという人が、ことが、ものがあるということを自覚して、人を一人の人として尊重していきたいと思っています。

2つ目が、子どもたちは環境に左右されるということです。だからその環境を作っている私たち大人一人ひとりがそのことをちゃんと意識する必要があります。子どもたちの環境にどう関わっていくのか、その環境にある、大きな危機の前の小さな小さな兆しをどう感受するのか。その関わりには正解はないから、わたしは生涯ずっと問い、学び、働きかけ続けていくのだということを学びました。無自覚に加担している社会に起こる様々なことについても同様です。、 最後に、目の前の子の、出会う人の、そして社会にあるレジリエンスにも目を向けるということ。今起こっていることは、歴史的・文化的に内在化されてきた暴力性やバイアスといった様々なことが影響しています。同時に、その中で育まれてきたレジリエンスも存在し、それが新たな可能性を生み出してきてもいます。だから、困難な状況でも回復や癒えを育んできたレジリエンスやwellbeingを受け取っていきたいと思います。

佐藤さん:皆さん、今日はどうもありがとうございました!


参加いただいたみなさんからはたくさんの質問が寄せられました。「活動を支援するためにできることは?」というものがあり、登壇者が「少額のマンスリーサポートや食らうドファンディング、商品の購入も大きな力になる」「困難にある子どもにとって、見ず知らずの誰かが自分のために行動してくれたという事実こそが、人生をよりよく生きようという変化を起こす」と答える場面がありました。

 

香港の若者に「関心を持ってくれることこそがサポート」と聞いたとの話もあり、知ることが関わりやサポートの一歩だと、改めて登壇者たちは語りかけます。知ったことの発信もサポートの輪を広げる大切なひとつの活動。

 

ひとりの市民として、隣にいる子ども、すれ違う子どものサインに気づくことが、子どもたちにとっても大人にとっても安全な地域、やさしい地域を作る一歩になっていきます。みんなで共に、暖かい未来を育んでいくことを願いながら、「Piece for Peace」はクローズしました。

セミナーレポート|子ども・若者にとっての“支援”を紐解く ~公的支援の立場から見る“非専門職”の可能性~

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11月1日(日)、「子ども支援のこれからのカタチ ~公的支援の立場から見る“非専門職”の可能性~」として、弁護士法人ソーシャルワーカーズの安井飛鳥さんをお招きして公開講座を行いました。

オンラインで、29名の方々に参加いただきました。

講師:安井 飛鳥 氏
弁護士法人ソーシャルワーカーズ 副代表
社会福祉士・精神保健福祉士・弁護士/児童相談所勤務弁護士

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◆講座内容
講座は以下4つのセクションに分けて進められていきました。

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・講師紹介/ソーシャルワーカーズの活動紹介

最初のパートでまず話していただいたのは、弁護士法人ソーシャルワーカーズの業務内容、安井さんのこれまでの経歴についてです。安井さんが弁護士、ソーシャルワーカーを目指した背景や専門職の可能性と限界について、お話いただきました。


・公的機関・専門職として出会う子どもたち

ここでは、安井さんが専門職として出会ってきた子どもたちについて話されました。特に印象的だったのは、「福祉・医療・司法をさまよう子ども」という話です。例えば、情緒的な理由から暴れてしまうお子さんがいて、家庭内での養育が難しくなり、児童相談所に連絡が入ったとします。ですが、福祉というのは強制的に行動を制限するような場ではないため、暴れてしまう子を本人の意思に反して保護し続けることは難しくなります。では、医療ならどうかということで、病院への受診を進めたとしても、病気というよりも情緒面からくる行動であり、医療で入院治療による解決が期待できる子ではないといわれます。それでは、司法で対応するのかというと、意図的に暴力行動を起こしているわけではなく、他者への被害も軽微であるので司法による矯正教育にも馴染まないという判断から司法の枠からもこぼれてしまう。そうして、どこの分野の支援からも漏れてしまう子がいるというお話をしていただきました。その他にも、「引きこもれない子ども」「少年院からでられない子ども」など、その背景にどんな課題があるのかをお話いただきました。

・対談①~専門家と市民、それぞれの特徴と役割~

講師の安井さんとPIECESの斎で、専門職と市民の役割について対談をしました。

専門職の得意なこと、不得意なことの話、そして実際に専門職以外の人との関わりから容体が変化した子どもの事例もお聞きしました。トラウマを抱え、医者、心理士、ソーシャルワーカーなどが関わっていても、ずっと苦しい状態が続いていた女の子が変化したきっかけは、アイドルオタクのファンコミュニティ。専門職からすれば、少し不安があるような交流ですが、結果的にその子はそのコミュニティの中で支えられ、見違えるように変わったそうです。課題や問題にばかり目が行きがちですが、その子が持っている興味や関心に繋がることで、子どもが持っている力が発揮されるということがわかる事例でした。

・対談②~市民性を発揮するうえで大切にしたいこと~

前のセクションに続き、市民性を発揮して地域の中で活動していく時に大切にしたい視点について対談しました。

地域という視点を持った時に、気をつけたいこととして、「子どもを特別な対象としてみない」というお話がありました。それまでの話の中で、専門職の得手不得手の話がでてきていましたが、専門職だからこその限界があるのにも関わらず、そこで市民まで同じような関わりをしてしまうと、苦しいということでした。だからこそ、1人の人として普通に接して欲しいというお話がありました。

また、育ちの課題を抱えていながらも、いろんな支援をかいくぐって、様々な地域を放浪するような子もいます。そのような子が、どこの地域に流れ着いたとしても、心が落ち着けるような出会いがある地域があちこちに増えて欲しいと安井さんはお話してくださいました。


◆当日の質疑応答の様子

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当日は講義動画をそれぞれで見た後に、数人ごとで感想共有を行い、全体で質疑応答を行いました。

質疑応答では、「関わる上で自分も心地よく関わっていける範囲を掴むのは時間をかけて磨いてきたと思うが、どういうところで自分のバロメーターを測ったり、意識していたりしているのか。」「福祉・医療・司法の連携が難しくて取り残される子どもの事例を知りたい。」といった多くの質問が参加者から寄せられました。

質疑応答の中で、「子どもの状態に合わせてほほえみ返しを繰り返すと、子どもに振り回されて自分というものがなくなるのでは?自分の感情などを大切にできないのでは?という恐れがある。自分も大切にしながら子どもと関わる上で意識していることがあれば、教えてほしい。」という質問に対し、安井さんは以下のように答えてくださいました。

「ほほみがえしや振り回されるというのは、ある種専門家として意識的やっている。振り回されるというのは、それを見越してやっているのであり、意図していないことで、振り回されているというのは違う。そうしていくためにはそれなりの見立てが必要になる。その上でほほえみ返しというのは、アタッチメントにも関わってくることで、絶対的な安心感を与えるということ、。この役割をするためには、自分が本気で大丈夫だよと思える状態じゃないといけない。だからまずは自分のメンテナンスをする。自分が本気でほほえみがえしをできないようならその役割を担えないし、その子とは若干距離を置かなくてはいけないと思っている。僕もプライベートがあるし、フル稼働してその子に尽くすことはできない。なので、プライベートはしっかり切り分けていて、子どもにも伝えている。その枠を子どもは理解してくれる。緊急対応の初動など例外もあるが、基本としては自分を保てる枠を作るというのが必要だと思います。」

子どもに関わりたいという想いが強いほど、どうしても力が入り過ぎてしまったり、子どもを特別な対象として支援をしようとしてしまいます。ですが、「支援してあげている」という関わりは、もしかしたら、「子どもの持っている力を奪ってしまっている」かもしれないと感じました。そんな関わりだけでは、子どもたちは辛くなってしまったり、関わっている大人も息切れを起こしてしまったりするかもしれません。だからこそ、1人の市民として関わること、そして、自分と相手の心地よい間を探すことが大切なのかもしれないと講座全体を通して感じました。

◆感想
以下、参加者からの感想です

・私自身は専門職でもなく、安井さんや前回の山下さんが対応されている様なかなりハードな事例に登場するような子どもに出会う事は今までありませんでした。しかし実は見えていないだけでハードな状況になるまでの段階では、自身の周りに当たり前にいる子ども達なのだと感じました。今回、講座を受け市民として地域や社会で「自然に」見守ると言う「自然に」と言う事が反対にとても難しく感じられましたが、今後も市民としての自然な関わり方への模索を続けたいと思います。

・私自身社会福祉士の専門職のために学びつつ、できないことや制度の隙間からこぼれ落ちてしまう子どもがいることにモヤモヤを感じて、このプログラムに応募しました。そのため今回安井さんが専門職・公的機関としての強みと難しさの両面からお話ししていただいて、自分の中にあったモヤモヤが少し明確になった気がしました。専門家の存在は大切だけど、ずっと専門家がついているわけにも、ずっと制度の中で生きていくわけにもいかないから、やっぱり地域が大切になるし、そこで発揮されることが市民性なのかなと感じました。好きなことで繋がれる人がいるって、本当に楽しいし、何にもとらわれない空間だから、自分のそういった面を活かしていきたいと感じます。


第5回目は、12月6日(日)10時~の開催です。

講師に、九州大学大学院人間環境学研究院専任講師である田北雅裕さんをお招きし、まちづくりやコミュニケーション・デザインの視点を切り口に、子どもを支える環境や市民性についてお話しいただく予定です。単発でのご参加も受付が開始していますので、ご関心のある方は是非イベントページをご覧ください。

イベントレポート|8/9開催 未来をつくるPIECESメイト★Welcome Party!メイトと語る #わたしとPIECES

\未来をつくる PIECESメイト/

7月に実施した寄付キャンペーンでご登録いただいた方々に「ようこそ、PIECESへ」。そして以前からPIECESを応援してくださっているPIECESメイトの方々に「いつもありがとう」の気持ちを込めて、オンラインでWelcome & Thanks Party!を開催しました。

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今回のキャンペーン期間中に、新たにPIECESメイト(継続寄付)にご登録いただいた方は128名、単発の寄付の方が73名となり、改めてPIECESを応援くださる方がたくさんいらっしゃることを実感することができました。

a piece for peace

おひとりお一人の願い、託してくださる想いが本当に嬉しく、共に同じ未来を願って歩んでいけること本当に心強く思います。


会の後半では、それぞれの #わたしとPIECES をことばにしていただくワークを実施。
お一人お一人から聞かせてもらった想いには、本当に温かく、優しく、強いものがありました。
 
生活の中で、過去の経験の中で、想いを馳せるようにPIECESに願いを託し、共に歩むことを決めてくださった皆さんに改めて感謝の思いでいっぱいです。
 
直接お会いすることは叶いませんでしたが、皆さんと共にこれから歩んでいけること本当に心強く思います
 
「またね」「これからよろしくお願いします」で終われるイベント。これからともに未来をつくるPIECESメイトのみなさんとの一歩に感謝とわくわくの気持ちが溢れました。
 
ご参加頂いた皆様、ありがとうございました!

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PIECESメイトのみなさまからのご寄付は、様々な背景によって子どもたちが社会的に孤立することを防ぐ活動や、PIECESが行っている市民性醸成プログラムにかかる費用に活用させていただきます。いただいたご寄付とお気持ちが、私たちの活動を通して、子どもたちにきちんと届いていくように努めてまいります。

#ひろがれPIECES

イベントレポート|6/21開催4th Anniversary 子どもとの優しい間にあふれるひらかれたweの社会にむけて

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4th Anniversary Event 「子どもとの優しい間にあふれるひらかれたWeの社会にむけて」を開催しました

6月22日で4周年を迎えたPIECES。代表の小澤、理事の斎・青木のほか新たに就任した理事・監事の4名も加え総勢7名でANB TOKYO_東京アートアクセラレーションにてトークセッションを行いました。

昨今の社会情勢を受けて、オンラインでの開催。登壇者は一箇所から、ご参加の皆さんにはオンラインで配信に参加していただきました。※トーク中はマスクを着用し、細心の注意を払い実施いたしました。

理事・監事メンバー(左から、青木・小野田・荻原・小澤・長田・佐藤・斎)

理事・監事メンバー(左から、青木・小野田・荻原・小澤・長田・佐藤・斎)

当日のタイムライン 

①about PIECES
②新理事・監事のご紹介
③トークセッション「ひらかれたweの社会に向けて」

(イベントレポートをぎゅっとまとめたスケッチノートが最下部にあります)

多くの人と歩んできたPIECESの4年間

6月22日に法人設立4周年を迎えたPIECES。2018年には東京都から認定を受け、認定NPO法人になりました。「about PIECES」のコーナーでは、代表の小澤、理事の斎と青木がこの4年間を振り返りました。

まずは事務局長の斎より孤立の現状の話から。

人が孤立してしまう背景にあるのは、人に頼ることはとても難しく、それは自分の現状を認識し、具体的に相談する相手の顔が浮かぶ、そういったハードルを乗り越えて初めて人に頼ることができるからです。

PIECESは設立以来、孤立の解消も含め取り組むべき課題に対し複数の拠点で活動を行ってきました。古民家や体育館、シェアオフィスなどさまざまな場所で子どもたち、社会人いろんな人たちと活動してきました。それは子どもにとって親でも先生でもない大人たち=市民との関わりというのを意識してきたからです。PIECESの活動から生まれた育成プログラムを終えたメンバーが地域の中で活動するようになったりもしました。

Citizenship for Childrenプログラム(旧:コミュニティユースワーカー育成プログラム)では4年間で60名のプログラム修了者が出ました。昨年より水戸地域で実施し、今後は全国に展開していく計画です。

この4年間、多くの寄付者の存在に支えられてきました。今では毎月の寄付者が約180名。企業・法人からの寄付が25社といった状況まで来ることができました。引き続きご支援のほどよろしくお願いします。


続いて代表の小澤より、これまでの活動を通じて思いいたった「間(ま)」、市民性の醸成について。

それぞれが良い関係で共存できる状態、例えばしんどくなっても誰かと支え合える、よい循環が生まれていく関係。それこそがわたしたちの描くひらかれたweの社会と言えるものです。

ひらかれたweの社会が生まれるために、すでに私たちは相互に影響しあい、働きかけあっている事を見つめ、受け取って、自分の手元から社会を生み出していくプロセスが必要だと思っています。わたしはわたしだけで存在しているのではありません。ひらかれたweの感覚を大事にできる社会にしていきたいのです。

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この社会で起きていること、例えば貧困や虐待、いじめなど様々な問題はわたしたちと無関係ではありません。問題の要因は、特定の何か一つに起因するものではありません。だから、社会が育まれていくためには、わたしたち一人一人が手元から社会に関わっていくことが大切です。

今回新しく理事・監事をお迎えしたのは、思い描いている未来を実現するため、これからのPIECESをつくるためです。

ひらかれたweの社会をつくる私たちに必要な視点が3つあります。

・みつめる    ― 私たちが生きる世界をありのままに見ること。

・うけとる    ― わたしたちの周りでおこっていることをありのままに受け取ること。

・はたらきかける ― 自分たちの手で社会に対して働きかけていくこと。

このような考え方を持つことが、やさしい間の生む世界をつくることや市民性の醸成に繋がっていきます。それぞれが自分の手元から社会に働きかけることができるのです。

PIECESが願っている世界観をつくってくれる人たちを”まきば”と総称しています。生態系のようにいろんな人たちそれぞれが大事にするものを起点に、ひらかれたweの社会をつくるために取組んでいる。そんなイメージを持っています。


次は、そんなひらかれたweの社会を目指しPIECESが行う事業について、理事の青木からご説明しました。

学びと実践とリフレクションのコースについて今年はオンラインで実施するものを新たに設けました。また、地域の中で新しいことを始めたいという方のために、プロジェクトを立ち上げるコースもつくりました。さらに今年は茨城県の水戸や、奈良の大和高田の各地域のNPOと協働して展開することが決定しています。

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その他にも、5月にクラウドファンディングを実施した、頼れる先のない妊婦さんのための project HOMEや、地域の子どもたちと関わる市民性醸成プログラムCitizenship for Children をより発展させたプロジェクトを都内で実施する取組みも行うことが決まっています。この2つはどちらも他の団体と協働して展開していきます。

さらに子ども研究員、一般社団法人Whole Universe 、Refram Labメンバーとともに代表の小澤が取り組むアートプロジェクト「イマーシブプロジェクト」も始動しています。これは時間も空間も超えた様々なものと共にあるひらかれたweの社会とは何かを考え、体験していくものです。今年は「ミエナイモノとあそぶ」をテーマに、アーティスト菅野創さんの開発したLasermice(レーザーマイス)という群ロボットを通して新しい生命を体験するなどの取り組みをはじめています。そしてPEACE for PIECE、寄付者と共に始める取組みの準備を進めています。


後半は、新しく理事・監事に就任された4名の方の自己紹介とお話がありました。

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まずは監事の長田さんから(長田さんの紹介noteはこちら)

長田:本業を通じて中小企業の支援をする中で、過剰な利益追求の姿勢に疑問を抱くことが何度もありました。GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)の存在が特徴的なように企業セクターが過度に富や情報を占有する事態に対しては、ソーシャル領域の発展が大事だとも考えるようになりました。ですから、その領域のプレイヤーが育つことが大事だと思っていますし、そういう気持ちで支援をしています。

 

続いては、新理事に就任された荻原さんから(荻原さんの紹介noteはこちら

荻原:以前お話しした際に聞いた “やさしい間” というキーワードが腑に落ちたことをよく覚えています。子どもの支援をする団体は多くありますが、PIECESはその課題に”間”というキーワードでアプローチしているのがとてもいいなと。また“すばらしいわかりづらさ”があるのもPIECESの特色と言えるでしょう。社会は複雑であり、わかりづらい。そこを敢えて単純化してしまうと、こぼれ落ちてしまうこともたくさんあります。単純化することで影響力を及ぼそうとする例も見られるのですが、それは好ましくないんじゃないかと。ですから、わたしはPIECESの“すばらしいわかりづらさ“を高く評価しています。

 

3番目は、新監事 佐藤暁子さん(佐藤さんの紹介noteはこちら

 佐藤:何でも問題があるとわかりやすくしなければならない風潮に違和感を持っています。社会は複雑で簡単にできない部分があるので、それをありのままに見ることが大切ですね。わたしの専門であるビジネスと人権の文脈で感じた違和感についてお話しすると、企業の担当者も一市民であり、一消費者である。けれども、ビジネスの場で話をするときは、なぜかその側面がなくなって ”企業の人” になってしまい、「自分と社会とのつながりがなくなってしまう。このつながりを取り戻すために」、ひらかれたweの考え方が生きてくるんです。ひらかれたweの考え方が自然に広がると良い社会になっていくんじゃないかという期待があり、そのアプローチにワクワクしています。

  

最後は理事に就任された小野田さんから(小野田さんの紹介noteはこちら

小野田:今日を迎えるにあたって、全てが互いの内外で影響し合い、変化し続けているというPIECESの世界観を、皆さんにわかりやすく伝えられる言葉はないかなと考えていて、そこで思い浮かんだのが、“包みつつ、包まれている” という言葉。

年輪気候学という学問領域があるんですが、樹は外の環境を年輪という形で自分の内に閉じ込めながら大きくなっていく。樹にとって環境は外のものであり、同時に内のものでもある。そこには、包みつつ、包まれているという一見矛盾しているようで実は一体の関係があって、同じように、いわゆる支援者と被支援者と言われるような関係性においても、実はお互いに包み包まれという関係にある。

社会的事業の役割について、課題解決なのか、価値創造なのかといった二項対立の世界観だけで語ることは必ずしも適切ではなくて、「私」と「社会」は密接不可分、「私」の意識、手元から今この瞬間「社会」が生まれている、同時に、「社会」からの影響が「私」に内在化されていく、年輪のように。そこにわたしたちが気が付くことで、少しずつ一人ひとりの所作が変わり、誰かにやさしくするといった変化が社会の可能性をひらくことにつながっていくのではないか。そう思っています。

各人とも駆け足でのトークでしたが、この4年間の取組み、そしてこれからの取組みについてのここまでの話で、すでに予定時間を使い切ってしまいました。まだまだ話し足りない理事や監事の様子を見て、これからのPIECESはますます目が離せない、そんな思いを抱きました。

参加者のみなさんで、PIECESの「P」をつくった集合写真

参加者のみなさんで、PIECESの「P」をつくった集合写真

オンラインではありましたが、共に4周年という節目の時間をつくってくださりありがとうございました。
日本各地、世界中から参加いただいた皆さん、本当にありがとうございました!

みなさまからいただいたPIECESへの応援メッセージ

みなさまからいただいたPIECESへの応援メッセージ

スケッチノート by 坂本紫織 (PIECESプロボノメンバー)

スケッチノート by 坂本紫織 (PIECESプロボノメンバー)


7/31まで!
あなたも子どもが孤立しない未来をつくるピースに
PIECESメイト100人募集寄付キャンペーン2020|#ひろがれPIECES

このアニバーサリーイベントをキックオフに月額寄付者(PIECESメイト)+100人を目指すキャンペーンを行なっています。
▶︎ https://www.pieces.tokyo/campaign2020

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この機会に共に優しい間を紡ぐ仲間「PIECESメイト」になっていただけると嬉しく思います。

5年目を迎えたPIECES。これからも引き続きご支援のほどよろしくお願いいたします。

セミナーレポート「子どものあそびや行動から紐解く、こころのケア ~傷や痛みが深まる前に、わたしたちにできること~」

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去る6月7日、公開セミナー「子どものあそびや行動から紐解く、こころのケア~痛みや傷が深まる前に、わたしたちにできること~」がオンライン開催され、代表の小澤いぶきが講師を務めました。

今年に入って初めての開催となった本セミナーは、「日常のさまざまな場面で子どもたちが発するサイン」を入り口として、子どもたちが不安定な環境の中でこころの傷や痛みを深めてしまう前に、私たち大人ができることについて考えることを目的として行われました。

-公開講座中のスクリーンショット-

-公開講座中のスクリーンショット-

本セミナーは「子どもが孤立する社会的背景」、「子どもが発するサインを紐解く」(ストレス下における「遊び」)、「子どもたちと関わるうえで大切にしたいこと」の3つのパートから構成されています。オンラインでの開催ということもあり、それぞれのパートが終了後、スケッチノートを用いて内容の振り返りを行いながら進行していきました。(スケッチノートは記事の最後に掲載しています、ぜひご覧ください!)

簡単ではありますが、本セミナーの内容を紹介していきたいと思います。

子どもが孤立する社会的背景

日本の子どもを取り巻く環境について、約7人に1人が相対的貧困、虐待相談対応件数は約16万件にのぼるといった報告がなされています(※1)。米国疾病予防センターとカリフォルニア州の民間健康組合の共同研究(ACEs Study: 子ども期の逆境的体験についての研究)によると、こうした子ども期の逆境体験は、身近な人達によってケアされるか否かによって成人後の状態に変化が現れるといいます(※2)。

逆境体験のひとつである虐待。その発生リスクとなり得る要因としては、子どもの人数や発達特性、養育者自身の精神的健康状態や年齢、家庭環境、地域での孤立や職場からのサポートのなさといった家庭の周囲環境、社会環境などが挙げられています(※3)。

現在日本で行われている虐待の防止支援策には、予防段階・早期発見段階共に構造的な課題が見られるといいます。具体的には、”自ら援助を求めに行く”ことのハードルの高さ、情報へのアクセシビリティ、行政や専門機関の逼迫によるきめ細やかな対応の難しさなどがあります。

子どもが発するサインを紐解く

まず、逆境体験の中で育つ子どもについての例として、DVや親同士の喧嘩が絶えない環境、保護者による干渉が過度に強い環境、貧困やネグレクトの環境といった特徴ごとに説明がありました。

そのような環境の下で「自分は意味のない存在だ」 「気持ちを伝えたところで誰も助けてくれない」といったような、自己否定や自分の感情や欲求に気づけない、人に頼れない状態が生じてしまうといいます。

逆境体験を通してこころがケガをすると、子どもは自分を守るために身体や行動、こころのサインを発することがあります。具体的には、不眠、身体のどこかに痛みを感じる、なぜだかわからないけれどいらいらする、そわそわしてじっとしていられない、などです。

また、逆境体験の中で育つ子どもがその中で生き抜いていくために担っている特徴的な役割についても子どもの発するサインのひとつとして併せて紹介されました。

・ヒーロー:いい子でいよう、と頑張る
・スケープゴート:自らがトラブルを起こすことによって、問題から目をそらしてもらおうとする
・ピエロ:わざとおどけて場を和ませようとする
・お世話役:家の中の問題をなんとかしようとして、調整役を担う
・人形:周りの人の思うとおりにしなければいけない、と思う

困難な状況の中で懸命に頑張っていても、周りの目がなくケアがされないと「頑張ったところで意味がない、どうせこれからもこの状態が続いていくんだ」と思うようになる学習性無力感という状態についても解説がありました。一見やる気がないように見える子どもの中には、この学習性無力感を持っている場合があるといいます。

〜ストレス下における「遊び」〜

子どもの発するサインに関連して、負荷がかかった時に見られる子どもの遊びについても触れられました。

遊びは子どもの表現方法のひとつであり、危機を乗り越えていくための対処法でもあります。周りにいる大人は、遊びを通して子どもが表現していることをしっかり受け止めることが大切であるといいます。

遊びの結末があまりにも破壊的・悲劇的であったり、子どもが遊びながら険しい表情をしている場合は、その遊びに関わりつつ違う結末を一緒に考えていくなどの対処について紹介がありました。


子どもたちと関わるうえで大切にしたいこと

子どもたちと関わるにあたり持っておくべき3つの視点についての説明がありました。

<ストレス・コーピング>
子どもの気になる行動はなんらかのストレスに対する本人なりの対処法であるという視点を持つ。そこに価値判断を入れないように心がける。

<トラウマインフォームドケア>
子どもの言動や行動の背景に、こころのケガの影響や、こころのケガを受けた時の恐怖・不安があるかもしれないという前提をもって接する。

  1. 不器用な対処―言動や行動の背景を考える

  2. 困った行動や言動の捉え直し

  3. 子どもの持つ興味関心を次の一手につなげる

<ストレングス>
その子どもが自分なりに担ってきた役割に対して敬意を持ちながら、その子が安全に生きられるようにサポートしていく。

参加者の方々の感想

  • 子どもの(一見)好ましくない行動に対して頭ごなしに怒らず立ち止まって考えることができそう。

  • 学術的なエビデンスのあるお話で概要を話してくださり、ご経験に基づく具体例も教えていただけて、理解が深まった。

  • こどものケアに関することの全体感を知ることができた。さらに興味が湧いて、もっと深く知りたくなった。

内容盛りだくさんの90分間でしたが、本セミナーで扱った内容をより深く、より詳しく学びたいと思われた方は、今期の市民性醸成プログラム “Citizenship for Children” の募集告知が6月16日からスタートしましたので、是非こちらをご覧になってみてください。 

※1:相対的貧困については、厚生労働省「平成28年度 国民生活基礎調査」、虐待相談対応件数については、厚生労働省「平成30年度 児童相談所での児童虐待対応件数等(速報値)」より
※2:Felitti, Anda, Nordenberg, Williamson, Spitz, Edwards, Koss & Marks, 1998
※3:福丸由佳(2012)「家庭におけるハイリスクの親への支援」日本発達心理学会(シリーズ編)武藤隆・長崎勤(編)『発達科学ハンドブック第6巻 発達と支援』新曜社


スケッチノート by 坂本紫織 (PIECESプロボノメンバー)

スケッチノート by 坂本紫織 (PIECESプロボノメンバー)

イベントレポート|191121開催「子どもたちを守る仕事とそれを取り巻く社会の仕組み」

「子どもたちを守る仕事とそれを取り巻く社会の仕組み」認定NPO法人かものはしプロジェクトさんと合同イベントを開催しました!

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みなさん、こんにちは!

先日11月19日(火)、認定NPO法人かものはしプロジェクト(以下、かものはし)さんとPIECESで合同イベントを開催しました。

アジアで人身売買をなくす取り組みをするかものはしと、日本で子どもの孤立を防ぐ取り組みをするPIECES。活動するフィールドは違えど、子どもたちを守っていく、子どもたちが健やかでいられる社会をつくっていくことを仕事としている両団体には、共通点が多くあるように思いました。

今回はそんなイベントの様子をお届けします!

村田 早耶香さん 認定NPO法人かものはしプロジェクト 共同創業者。

村田 早耶香さん
認定NPO法人かものはしプロジェクト 共同創業者。

「だまされて売られる子どもを守りたい」

はじめに、「子どもが売られない社会をつくる」ことをミッションに掲げる、認定NPO法人かものはしプロジェクトの共同創業者の村田さんからお話を伺いました。

学生時代2人の友人と立ち上げたこの団体は、未成年の子どもたちが売春宿で無理やり働かされていることも多かったカンボジアで事業を始め、現在ではインドに事業を展開しています。

「売られない活動・買わせない活動」をこれまで行ってきて村田さんは、「子どもが売られない社会は作れる」と語ってくださいました。

小澤 いぶき 認定NPO法人PIECES 代表理事/Co-Founder 東京大学医学系研究科 客員研究員/児童精神科医

小澤 いぶき
認定NPO法人PIECES 代表理事/Co-Founder
東京大学医学系研究科 客員研究員/児童精神科医

「子どもたちが孤独の中で生き続け、社会のことを信頼できなくなる明日よりも、人の想像力から生まれる優しいつながりが溢れる社会をつくりたい。」

児童精神科医として、PIECES代表の小澤は医療の現場で様々な問題に苦しみ孤立する子どもたちに出会ってきました。その苦しみや孤立を解消するために、子どもたちの周りに寛容な社会を築いていこうと、このPIECESを立ち上げました。PIECESは「子どもにとって大事なのは、信頼できる他者の存在だ」と信じ、子どもと関わる市民の育成をしています。今回はこれまで育成してきた市民の皆さんとそしてそこで出会った子どもたちとの関わりついて紹介させていただきました。

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後半では、村田さんと小澤を登壇者として改めて迎え、参加者からの事前アンケートを基にクロストークを行いました。

Q『お互いの活動からの学びや刺激』

今回が初めての合同イベントの開催でしたが、改めてお互いの活動を聞き改めて思ったことや、日頃からどのようにお互いを見ているのか教えて欲しい、といったご質問をいただきました。

村田さん

いぶきさん(小澤)の精神科医時代から子どもたちにコミットし続け、子どもたちの声に耳を傾けてきたその一環した姿勢にとても刺激を受けています。

変わらない信念というか。それを持ち続けることってすごいなと思います。

小澤

私は、子どもたちに寄り添う大人たちがいれば子どもたちはきっと信頼できる人を見つけて、しんどい状況から脱却できるのではないかと希望を持って信じているんです。

決してこの問題は日本の子どもたちに限った話ではないと思っているので、かものはしさんのように子どもたちをエンパワメントし続ける活動がとても素敵だなと思っているところです。

小澤

村田さんとはかものはしさんがクラウドファンディングをしていたときに支援したことがきっかけでつながりました。どの国においても自分の人生が誰かによって決められてしまう状況をなんとかしたいという思いがずっとあって、村田さんを応援しています。先ほどのプレゼンも、何度もお聞きしたことがあるはずなのに、初めて聞いたように終始聞き入ってしまいました。

かものはしさんの活動からはいつも優しさを感じており、そして逆にその優しさからエンパワメントされていて、これからもご一緒できる機会があると嬉しいです。

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Q『日本にいてすぐにできること』

参加者の方から、「お二人の話を聞いていると、社会はすぐに変わっていくのではないかという感覚を覚えますが、活動の中から社会が変わっていったポイントはあったのでしょうか。また、そのために自分たち一人ひとりはどこからスタートすれば良いか教えてください。」という質問が挙げられました。

村田さん

カンボジアで活動を始めた当初は、周囲からは否定的な意見ばかりで、活動もうまく進まず本当に大変でした。

でも、誰に止められたとしても、自分がやりたいからやっているんだ、この気持ちを忘れないようずっと歩んできました。そうしていると、まるでオセロが黒から白に変わるように、カンボジア国内で売春から子どもたちを守る法律ができ、どんどんと売春宿が閉鎖されていった。

子どもが売られない社会はつくれると、諦め悪くずっとやってきたことで社会が変わったのだと思います。

村田さん

そして、今日この会場にも多くのマンスリーサポーターの方に来ていただいていますが、ご寄付で応援してくださる方がいて初めて私たちの活動は成り立っています。

多くの方に諦めの悪い私たちの挑戦を、背中を押してもらって活動できているのはとてもありがたいです。

小澤

私は小さい頃から人の手で作られたものは人の手できっと変えることができる、という風に思っています。戦争も人の手で始まったのだから、人の手でしか終わらせられない、と。でも、強いリーダーが全てを決めるのでは歪みができてしまいます。一人ひとりの力が集まれば、社会はきっとよくなるはず。

社会の歪みや傷つきにより生まれている痛みはまだまだたくさんあります。炭鉱のカナリアのように、この社会には社会の傷つきを教えてくれる声があるはずですが、まだまだ聴かれてない声があります。「聴かれていない声」を聴きにいくことで、その背景にある構造的課題をなんとかしようとしてきました。

そして、一緒に活動してくれる仲間との歩みの中で、日常に間が生まれ、それが救いとなってきました。一人ひとりにとっては、普段の日常に関心を向けることで、他者との間に優しい関係性をもたらしていくことが、社会に小さな変化をもたらしていくと信じています。


レポートはこちらで以上となりますが、村田さんと小澤の話から、活動地は国外と国内とで異なりつつも、目の前の子どもたちに真っ直ぐ向き合い、その声を聴くことを大切にしながら活動を続けている姿勢は同じだな、と感じました。これからもかものはしプロジェクトさん、そして私たちPIECESの活動に関心を持っていただけると幸いです。引き続き応援をよろしくお願いいたします!!

かものはし、PIECESスタッフでの季節感のある一枚

かものはし、PIECESスタッフでの季節感のある一枚

【動画アーカイブ】「子ども虐待の背景を知り、社会全体でこの問題に取り組む」にはどうしたらいいか?

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平成29年度の児童相談所の虐待対応件数は13万件(※)と、実は、今日一日を安心して暮らせていない子どもたちが、私たちが暮らすこの街にはいます。厚生労働省では、毎年11月を「児童虐待防止推進月間」として、児童虐待防止のための広報・啓発活動などを行っています。

今年は特に、虐待に関するニュースが全国的に取り上げられたこともあり、様々な人たちから議論が巻き起こった年でもありました。そのようななか、わたしにもなにかできないだろうか?現在の制度はどうなっているのだろうか?と思われた方も多いかと思います。

私たちPIECESも、そんな思いから立ち上がった虐待防止へと取り組んでいる1つの団体です。代表の小澤は、児童精神科医として、臨床の現場で数多くの虐待を受けた子どもたち、そして養育者の方々と接してきました。

しかし、医療機関に来る前に、さまざまな人の関わりでできることもあるかもしれない、医療機関では出会えないけれど孤立している子もいるかもしれないと実感しました。そこで、小澤は、医療機関や専門家だけがこの問題に取り組むのではなく、社会全体として取り組むためにPIECESを立ち上げました。

今回は、11月の「虐待防止月間」にあわせ、「虐待予防のために、私達ができること」と題して、虐待の背景から、私達が日々できることについて考えるFacebook Liveを行いました。

Liveでは、小澤から「虐待とは?」ということから、「PIECESが生まれるまでの臨床現場で感じた虐待の背景」、そして、PIECESで活動するコミュニティユースワーカーと一緒に「実際に現在、PIECESの現場で活動に取り組んで感じたこと」について、お話させていただきました。
↓動画をぜひ御覧ください。


■プレゼンターについて
代表:小澤いぶき NPO法人PIECES代表理事/Co-Founder
東京大学先端科学技術研究センター客員研究員/児童精神科医
精神科医を経て、児童精神科医として複数の病院で勤務。トラウマ臨床、虐待臨床、発達障害臨床を専門として臨床に携わり、多数の自治体のアドバイザーを務める。さいたま市の子育てインクルーシブモデル立ち上げ・プログラム開発に参画。
2016年、ボストンのFish Family Foundationのプログラムの4名に推薦されリーダーシップ研修を受講。2017年3月、世界各国のリーダーが集まるザルツブルグカンファレンスに招待、子どものウェルビーイング達成に向けたザルツブルグステイトメント作成に参画。

■PIECES  コミュニティユースワーカー:大畑麻衣花
コミュニティユースワーカー2期生。
大学では心理学と保育学を学んでいて4年生になる代だが、NPOへの興味が高まり現在休学中。
PIECESでは、小中高校生とクタクタになるまで遊びまわっているが、最近体力の差を感じ始めている。PIECES外でも、虐待など複雑な家庭環境で育った経験のある子どもたちが過ごす施設でアルバイトをしている。


厚生労働省による平成29年度「児童相談所での児童虐待相談対応件数(速報値)」参照。


<配信内容の概要>


●虐待とは?

・身体的虐待、心理的虐待、性的虐待などがあります。
・ネグレクトとは、子どもたちの尊厳が放棄されているような状態のことを指します。

●虐待の背景

虐待の背景には、様々なレイヤーがあります。

・家庭内の状態:子どもの人数や障害の有無、養育者の精神状態など
・家庭と地域の状態:職場からの孤立、家庭の経済状況、地域からの孤立など
・社会の状態:家族の役割への社会からの重圧 

生物学的には子育ては共同体で行うものです。
1人で頑張らなければならない、しんどく感じるときに、一緒に子育てをしていけるような環境作りをしていかなければならないと考えています。

「家族だから…」やらなければならないというのではなく、核家族化、地域のかかわりがなくなっているからこそ、どのように一緒に子どもを育てるということをシェアしていくかということを考えていかなければなら無いと思います。

●虐待による子どもへの影響

①愛着形成の困難さ

アタッチメントとは、子どもと特定の母性的人物に形成される強い情緒的な結びつき。幼少期に必要不可欠な重要な関係性のことを指します。愛着形成には養育者も安心した環境作りが必要不可欠です。

愛着が育まれないと…脳の特定の部位の機能が低下し、なにかをやろうとしてもモチベーションが上がりにくくなってしまうこともあります。これはケアをすることで回復していきます。

②心理的孤立

信頼して頼るということの困難になっていきます。
たとえば、DVが会った場合。暴力があることは子どもにとって不安の要因になります。頑張っても家族の中が上手くいかないと、自分が意味がない存在ととらえるように。そうすると、自分の感情、やってみたいという気持ちが抑えられてしまい、信頼している人に頼るということが難しくなってしまうこともあります。

心理的孤立とは、頼る人がいない、頼れない状態。

困った時に相談する人がいるような「あたたかい経験」がないから頼るという選択肢自体が思い浮かばないことがあります。何に困っているかわからないほど深刻化しているとき、意欲すら奪われ、支援されることに抵抗があることがあります。頼ることは実は主体的な行為で、大切だが難しい行為でもあります。

そのため、頼りたいと思うことが出来る環境作りが重要です。

●私たちにできること

①子どもへのまなざし

迷惑をかけてはいけないという空気感を取り除く。子どもたちが頼ることができる雰囲気作りをしていくことが大切。

②養育者へのまなざし

頑張っている養育者への関わりが大切になります。養育者が頼れるということは、子どもが豊かに育つ環境が広がることでもあります。


③寛容な社会を作る

目に見える言動だけではなく、目の前にいる人の、思考、感情、願い、欲求に目を向けていくことが大切です。

たとえば、イライラ、物にあたっている人がいたとしたら。一見、行動だけを見ると単に暴力的な人にみえるかもしれません。しかし、その子の心の奥にある感情をみる必要があります。そうした寛容な関係性が、「頼ってもいいんだな」という気持ちに繋がっていきます。

※その他、質問への回答や詳細は動画をご覧ください。

多様な人が共存できる「余白」をつくり、誰も排除しない地域福祉へ- 第6回 One P’s Night イベントレポート

こんにちは。PIECESインターンライターのエミリーです!

11月16日、地域福祉の立場から「多様なあり方を面白がる場のデザイン」を考える、One P’s Night(ワンピースナイト)が半蔵門のLIFULL HUBで開催されました。

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One P’s Night(ワンピースナイト):株式会社LIFULLの社会貢献活動支援委員会が主催するイベント。社会問題の解決にとりくむNPOや団体、人を招き、一緒になって問題解決を考える場。今回で第6回目を迎えた。

今回は、京都府京丹後市で「ごちゃまぜの福祉」をめざして複合型福祉施設のコーディネーターをされている川渕 一清(かわぶち かずきよ)さんと、兵庫県尼崎市でまちづくりのさまざまなプロジェクトをおこないながら今年11月「ミーツ・ザ・福祉」というイベントを作りあげた藤本 遼(ふじもと りょう)さん、そして認定NPO法人PIECES理事の斎 典道(さい よしみち)さんをゲストに迎え、さらにモデレーターとしてPIECES理事の青木 翔子(あおき しょうこ)さんが加わって4人でトークをおこないました。

定員40名の参加枠に対して、50名以上のお申し込みをいただき、大盛況となった今回のOne P’s Night(ワンピースナイト)。「多様なあり方を面白がる場のデザイン」というテーマから、多様なあり方を面白がるとは?という問いからお話が始まりました。排除せず多様な人と共存する新しい福祉、それを取りまく場のデザインについてのお話をレポートします。

登壇者紹介

まずは、今日お越しくださった3人に、それぞれの取り組みについて聞きました。

◆ 斎 典道(さい よしみち)さん - NPO法人PIECES理事

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さい:こんばんは。NPO法人PIECES理事のさいです。PIECESは、誰もが尊厳を持って生きられる豊かな社会をめざして「こどもの孤立」という課題に取り組んでいます。今年10月に認定NPO法人になりました。わたしたちは、虐待やネグレクト、貧困などの子どもを取り巻くさまざまな問題の背景には「子どもの孤立」があると考えています。子どもたちが孤立していく理由は、そもそも人から大事にされる経験に欠けていて、人を信用できず自分を大事にすることもできなくなってしまうからです。子どもの孤立のループを止めるために、わたしたちはコミュニティユースワーカー(以下:CYW)を育成し、CYWによる子どものサポートをおこなっています。
PIECES 公式HP



川渕 一清(かわぶち かずきよ)さん - みねやま福祉会

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川渕:京都府の京丹後市からきました。地元が京丹後市というご縁で、3年前から社会福祉法人みねやま福祉会で仕事をしています。それまでは東京で普通のサラリーマンをやっていました。みねやま福祉会は、2020年で70周年を迎える社会福祉法人で、戦災孤児の受け入れから始まった歴史ある法人です。現在わたしはそんなみねやま福祉会の複合型施設「Ma・Roots(マ・ルート)」でコーディネーターをしています。

「Ma・Roots(マ・ルート)」は、特別養護老人ホーム、障害者支援施設、保育園を全部ひとくくりにした複合型施設です。それぞれ「○○支援施設」など福祉っぽい名前をつけず、「エルダータウン」「ワンダーハーバー」「キッズランド」といった名称にしています。福祉っぽい名前にしちゃうと、支援する側とされる側の分断がおこるような気がして、地域の方やご利用者のご家族も馴染みやすくなるようにと検討を重ねました。日々、「ごちゃまぜの福祉」を目指して実践している中で、施設を日常的に利用する人以外にも門戸を開いています。「居心地がいいな」と思って、気づいたら福祉施設だったという場所になったらいいなと思っています。
みねやま福祉会 Ma・Roots(マ・ルート)公式HP



藤本 遼(ふじもと りょう)さん - 「ミーツ・ザ・福祉」仕掛け人

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藤本:兵庫県の尼崎市から来ました。尼崎を中心にまちづくりの仕事をやっています。いろんな人とプロジェクトをやるなかで、おもに企画やファシリテーションをしながら、街を面白くする活動をしています。そのひとつが「ミーツ・ザ・福祉」です。そもそも「ミーツ・ザ・福祉」は36年間続く、障害のある方とそうでない方がお互いに理解を深めようというイベントです。いろんな人と一緒に楽しめたらいんじゃないかということで、昨年から尼崎のNPOとぼくが入って一緒にやっています。

一番大事にしたのは、実行委員会をオープンにすることです。開催の半年前からワークショップを開いて、どんなイベントにしたいかみんなで話しあいました。10年以上イベントに関わっていた人も、初めての人も、福祉に関わっている人も全然関わっていない人も、あわせて80人くらいがボランティアで関わって、当日4000人が来てくれました。あるアパレル関係で働く方が「だれかのものさしを気にして、今まで生きてきたような気がする。でもこの場は、多様なあり方が肯定されるような場だと感じる」と話してくれたんです。いろんなあり方があって面白いと、新たに気づかされる場っていうのが面白いと思うんですよね。
ミーツ・ザ・福祉 公式HP

 

「目的がたくさんある場づくり」で、多様な人に場を開く

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これからの場づくりには、多様なあり方をおもしろがる場づくりが大事だと思うのですが、「多様なあり方を面白がる」って具体的にどういうことだと思いますか?


川渕:どんな人でもとりあえず受けとめてみて、どんな場が作れるか考えてみることでしょうか。場づくりでは、関わる人とのコミュニケーションがすごく大事だと思うんです。たとえば、Ma・Roots(マ・ルート)で働いていると、認知症のおばあさんが毎日事務所に入ってきて、いつも隣に座るんですよね。毎日ぼくの隣で同じ話をしてくれるんですけど、それでいいと思うんです。「こうでなければならない」なんてことはなくて、そこにいる人たちとどう場を作っていくのか、ポジティブに考える姿勢がとても大事な気がします。

藤本:「ミーツ・ザ・福祉」でも50人くらい集まって、グループごとにミーティングをするんですが、会議に疲れちゃう人がいるんですよ。最近までうつ病にだったけど、面白そうな場だから頑張って出てきたという人。でも、やっぱりちょっとしんどくなっちゃって、という話があって。なので「喋らないでもいいエリア」を作りました。ただそこにいてOKというエリアなんです。我々が思うような「貢献」をしなくていいような場の作り方って非常に大事なことなんじゃないかと思います。

さい:利用者にとって、その場に多様な選択肢があることはとても大事なことですよね。PIECESが場を設定する時、「ゲームを作る」とか「スポーツ」とか「学習」とかある程度目的を絞ります。とはいえ目的がひとつだとこどもは飽きるし、なんか違うなと思ったときに逃げ場がなくなるんです。そうなったときに、他のことに興味をもつ余白があるのは大事ですよね。福祉って、ニーズを縦割りの構造で捉えがちなんですけど、多目的的な場になっていることはそういう意味でも大事だなと子供たちの姿を見ていて思います。

 

「余白」はつくるのではなく、自然と生まれるもの

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他者が関わる余白を、具体的にどう作っていけばいんでしょうか?

さい:遼さん、余白づくり名人な気がしますが...

藤本:抜けてるだけなんですけどね~(笑)なんか…なんなんでしょうね。ダメでもいいよねっていう感じを僕が出してるんですね。一応リーダーだけど、指示も出さないしビジョンも語らない。ビジョンを語ると、みんながそこに合わせて自分自身を変えてしまうんですよ。それって大事なことかもしれないけど、多様なあり方を肯定することにはならないと思うんです。だから、コンセプトやストーリーはよく語ります。関わる人が多ければ多いほど、僕の語るコンセプトに対しての考えも違ってくる。その中でそれぞれのスタイルが生まれてきて、それが場を面白くすると思います。

さい:そういうの気持ち悪がる人もいませんか?

藤本:います。方向性を示してほしい人もいらっしゃるけど、そんなときは、みんなで喋りながら考えていこうかっていう話をします。

川渕:「ごちゃまぜ」な場では、我々が何かを提供するわけじゃなくて、気づかないうちに余白の中から関係性が生まれているケースがあります。選択肢はつくるけど、それを選んでも選ばなくてもいいよというスタンスでいますね。たとえば、Ma・Roots(マ・ルート)のカフェスペースにはけん玉が置いてあるんですが、障害者の就労支援に通っているけん玉名人がコツを教えてくれるんです。「足を斜めにこう動かせばできるよ」って。それが「入ったー!」ってなると、もう関係性が生まれちゃってるんですよね。

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藤本:非常に思うのは、恣意性みたいなものが見えたときに、途端にやる気なくなることが結構あるんですよ。全般的に、ワークショップをやって地域のプロジェクトを立ち上げて進めていくときに、「いくつ立ち上げなきゃいけない」みたいなことが意図せずとも伝わってしまうと、途端にやる気を失ってしまうんです。何が起こってもいいし何も起こらなくてもいいってスタンスを貫くのは、めちゃくちゃ大事な気がしますね。

 

共感できない他者を排除せず、関わり続けることで変化が生まれる

多目的な場づくりや場を開いていくことは、今までの福祉や場作りのあり方を変えることですよね。これまの福祉との対立はありますか?

藤本:価値観がぶつかることがあります。「ミーツ・ザ・福祉」は、35年間地域の方がやっているイベントで、そこに去年から僕らが入って、変えたという経緯があるんです。去年は今までずっと継続的に関わっていた方に「障害者のことをわかってない」と言われたりして、お互いに理解や共感をしあえなかったんですよね。でも今年は、そのコミュニケーションが少し変わって「晴れてよかったね」とか声をかけてくれたんですよ。

共感できなくても一緒にいた結果、お互い気づかぬうちにちょっとずつ変わっていたんです。障害者健常者に関わらず、理解や共感ができない他者とどう共存していくのかということは、これからの時代を生きる僕らにとって非常に大事なことだと思ってます。排除すると関係性は途絶えてしまうので、ずっと関係性をホールドし続ける強さやたくましさが、地域福祉には大事だと思うんです。

川渕:そういう意味でいうと、Ma・Roots(マ・ルート)は、これまで縦割りだった特別養護老人ホームや障害者支援施設、保育園を複合したという側面があり、これまでの分断された福祉のスタイルを大胆に変えていると思います。Ma・Roots(マ・ルート)は福祉施設なんですけど、門がなくて、24時間誰でも入れるんです。そこには認知症のおばあちゃんの鼻を拭いてるこどもがいたり、小さなこどもと一緒に動画をみている自閉症の男の子がいたりします。縦割りではないこの感じが心地いいと僕は思っていて。居心地がよくて、気づいたら福祉施設だったというのを目指してチャレンジしていきたいと思います。

さい:僕はPIECESの理事をしながら、週2日は区役所でソーシャルワーカーとして働いているのですが、区役所の人が市民と関わる時間は、穏やかな時間ばかりじゃないんですよね。怒鳴りに来たりする方もいて。そういう状況から、地域の人と関わってエンパワーされることはあまりないし、お互いエンパワーしあう場にもなっていないと思います。お互いの立場を尊重しながら排除することなく関係性を持ち続けるために、行政でできること、一般市民ができることをきちんと明確にしていくことが重要ですよね。

ありがとうございました。




まとめ

新しい地域福祉の現場で、健常者と障害者を分断したり、保育園や老人ホームを個別に作ったりするのではなく、多様な人がお互いの差異を受け入れ共存していくという新しいスタイルが生まれつつあります。多様な人たちが共存するためには、理解できなくても、共感できなくても、お互いの存在を否定せず、相手に変わることを期待せずに関係を持ち続けていくことが、とても大事なんですね。誰も排除しない多様な場が、今後どんどん周りに増えていったり、作る人が増えたりするのがとても楽しみです。

 

グラフィックレコーディング (レコーダー: あるがゆう)

登壇者のお話のエッセンスや、感情や場の温度の高まったポイントを中心に描き起こしました。よろしかったら上記の内容と照らし合わせながらご覧いただければうれしいです。

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小幡 絵美梨(おばた えみり)


法政大学経営学部の4年生。長野県塩尻市出身で寒いところが好き。
PIECESがテーマとする「子どもの孤立」が自分の問題意識とぴったり合致してPIECESにインターンとして参画。記事を書くのも好きですが、グラレコをするのも好きです。

『アシスとしま』キックオフフォーラムに参加しました

豊島区が、7月2日から開設する子ども若者総合相談窓口『アシスとしま』。
その開設を記念したキックオフフォーラムに今日は参加しています。

庁舎内に常設する子ども若者に関する相談窓口としては23区初とのこと。行政各課とのスムーズな連携を促すことに加え、担当ワーカーが地域の民間団体や各機関に積極的に出向くことで、相談窓口に来れない人へのサポートに取組んでいくことが強調されていました。

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フォーラム会場では、PIECESもパネル展示をさせていただき、またコミュニティユースワーカーメンバーは会場内の誘導係として運営にも協力させていただきました。

先月には豊島区内に新たな活動拠点が生まれたこともあり、PIECESとしても行政や地域の方々と一緒により一層サポートシステムづくりに励んでいきたいと思います。

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3月イベントレポート 子どもの孤立を予防する仕組みづくりとは〜PIECES活動説明会〜

初めまして。PIECES活動報告会運営スタッフの澤です。

去る3月19日、PIECES代表小澤とコミュニティユースワーカーの糸賀をプレゼンターに招き、「子どもの孤立を予防する仕組みとは-pieces活動説明会-」を開催しました。参加していただいた皆さま、月曜の夜に足を運んでいただきありがとうございました。簡単にイベントをレポートいたします!

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会の始めは自己紹介から!話が緩やかに弾んでいるご様子。「幼児教育に興味があります。」「社会問題を解決したい!」「こども食堂をしていたので。」などなど、多様な思いを持って参加してくださっていました。


その後は代表の小澤からPIECESを始めた経緯に関するお話、小澤が出会って来た子どもたちの話。胸がグッと締め付けられるようなお話もありました。そして、どの事例でも共通していたことは「子どもが孤立していることに誰も気がつけていないときがあった」ということ。こうした事例について、参加者のみなさまにも感想や孤立の背景について考えてもらい、シェアしてもらいました。「家庭が悪いのではないか。」「学校がもっとしっかりしていれば」そうした意見が飛び交いました。

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そうした意見を踏まえて、小澤からPIECESが考える子どもが孤立してしまう課題の構造に関するお話をしました。「頼るということは主体的な行為」このキーワードが私は印象深かったです。私たちの当たり前が、その子にとっての当たり前とは限らない。
話を聞いていく中で、ハッとした表情を見せる参加者が多くいらっしゃいました。

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続いて、現場で実際に活動を行っているコミュニティユースワーカーの一人、糸賀からコミュニティユースワーカーに参加した経緯と、参加してみて感じたことに関する発表。彼女の子どもたちへのメッセージ「一緒にいるこの瞬間は目の前にいるあなたのことを考えているよ」は心に強く響きました。
また、現在PIECESの活動を通して、「あの子にとっての幸せな瞬間はなんだろうと語り合える仲間がいること」が心強いという話をしていました。それがPIECESの良さなんだなぁとしみじみと思いました。

最後は参加者からの質問の時間。ここでは、印象に残ったやりとりを書こうと思います。

まずは「Q,頼る力を育めば、孤立は解消されるのか?」という質問から。
「頼るという行為は相手との相互作用、頼るスキルを育むだけではなく、頼れる文化を作っていく必要があります。スキルと文化、両輪揃って初めて頼るという行為ができるのではないか」と小澤は話していました。

続いて「Q,活動の中で自身のトラウマと重なってしまうことがあるのではないか?」という質問に対しては、「コミュニティユースワーカーのゼミのおかげで、冷静に見ていくことができました。お互いのWHYを話せることで、自分の過去の感情の整理をつけることができました。そうすることができたことで、目の前の子は目の前の子、そうやって自分と分けて考えることができました。」と糸賀は話していました。専門家の適切なアドバイスとお互いの思いを共有し、共感し合える環境。それがPIECESが持つ強みなのだと感じました。

PIECES活動説明会は今後も月一回のペースで実施予定です!皆様のご参加お待ちしております!