頼りたいけど 頼れない。
「子どもの孤立」という社会課題のために。 

貧困、虐待、不登校。高校中退、10代妊娠、シングルマザー。
子どもの生きづらさの背景にある「孤立」。

実は今日もここ日本で、おおよそ1週間に1人、虐待によって子どもが亡くなっています。死亡には至っていないものの、20万件を超える虐待相談対応件数のうち、ネグレクトと身体的虐待を受けている子どもは8万人以上にものぼります。
*厚生労働省令和3年度の児童相談所による児童虐待相談対応件数(速報値)より

今日一日を安心して暮らせていない子どもたちが、私たちが平和に暮らすこのまちにも存在します。それらの表面化した課題の背景には、共通して潜む「孤立」という課題があります。

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私たちは、孤立には3つの種類があると考えています。
家庭での孤立、学校での孤立、地域での孤立。

家族がいても、寂しい思いをしていたり、虐待のなかに生きる子たち。
学校のなかで、信頼できる先生や友達がいなかったり、不登校の状態にある子たち。
貧困や障がい、非行などが原因で、地域との繋がりが薄れていっている子たち。

「自分は頑張っても意味がない」
「誰も助けてくれない」
孤立のループ

孤立のループ

子ども達は孤立してしまうと、このように思うようになります。そして、子ども達の中から、遊びたい、学びたい、何かをやってみたい、自分で挑戦したいという意欲がなくなっていきます。

孤立してしまうと、人への信頼感がなくなり、他者とつながれる機会があったとしても、人と繋がる意欲すらなくなってしまいます。

人への信頼感がなくなると、さらに孤立し、困難が大きくなる。だからこそ、私たちはこのループが生まれづらい社会をつくっていく必要があると思っています。


子どもの孤立と子どもの貧困

「子どもの貧困」の社会的潮流

「子どもの貧困」という言葉を最近はあらゆるところできくようになりました。日本でも、「子ども食堂」などの草の根の取り組みはもちろんのこと、「子供の貧困対策」として施策がうたれてきました。

世界的にも、150を超える首脳が参加して行われた「国連持続可能な開発サミット」では、2030年までの新たな目標となる「持続可能な開発目標(SDGs)」が採択され、そのなかにも貧困についての目標が盛り込まれるなど、貧困は現代社会が取り組んでいくべき課題の1つとなっています。

 

日本の「子どもの貧困」

では、子どもの貧困とは実際にどのような実態があるのでしょうか。

日本における子どもの貧困は、現在7人に1人の割合で存在すると言われています。特にひとり親家庭における子どもの貧困率は半数を超えており、これは先進国のなかでもトップクラスです。

厚生労働省 平成28年度「国民生活基礎調査」より作成>
注:1) 平成6年の数値は、兵庫県を除いたものである。
2) 平成27年の数値は、熊本県を除いたものである。
3) 貧困率は、OECDの作成基準に基づいて算出している。
4) 大人とは18歳以上の者、子どもとは17歳以下の者をいい、現役世帯とは世帯主が18歳以上65歳未満の世帯をいう。
5) 等価可処分所得金額不詳の世帯員は除く。

この子どもの貧困の定義は、あくまで金銭的状況でのみ貧困かどうかを判断しています。一方で、貧困とは金銭的状況だけではなく、生活する上で必要な物質的なもの・財や、サービス・機会などが十分に揃っているかどうかの状況も含めるとこの数は変化していくと考えられます。しかし現在の日本ではその実態はわかっていません。

※貧困かどうかを決める貧困の指標は、いくつかありますが先進国でよく基準に用いられるものの1つに「相対的貧困」「物質はく奪指標」というものがあります(詳細は内閣府『子供の貧困に関する新たな指標の開発に向けた調査研究 報告書』参考にしてください)。

子どもの貧困と子どもの孤立

私達PIECESでは、子どもの貧困よりもう少し広い意味で「子どもの孤立」という言葉を使っています。貧困は、子どもの生きづらさと関係する1つの状況であることは確かですが、実際はさらに複雑で多様な課題が子どもたちの周りにはあります。

たとえば、虐待やネグレクトが生じる可能性が高い家庭の要因としては、ひとり親家庭や離婚や再婚などの家庭状況の変化、親自身の精神的健康、親の産後うつなどの抑うつ傾向、親の低年齢、地域での孤立、子どもの発達特性、子どもの人数、そして家庭の経済状況(貧困)等があることがこれまでの調査からわかっています(福丸 2012)。
実際に、PIECESでも、家庭が貧困であるわけではなく比較的裕福であっても、十分な養育を受けていない子にも出会ってきました。

こうした状況にある子どもたちは、自分自身への信頼感、他者や社会への信頼感を失い、主体性や将来を考える気力すらなくなっていることがあります。そういった状態にあると、誰かに頼ることができず、社会から孤立していきます。
 

誰もが豊かに生きていける社会をめざして

社会からの孤立は、「社会的排除」という概念でも語られてきました。社会的排除は、資源や困難な状況をきっかけに、社会の仕組み(保険や制度、家庭や学校、地域、仕事)からこぼれおち、人間関係が希薄になり、社会の一員としての権利や尊厳が失われていくことを指します。

そして、社会から孤立していくということは、子どもの将来はもちろん、社会集団の分断につながっていきます。
分断されていった社会は、そういった困難な状況にある子どもだけではなく多くの人々が住みにくい社会になっていきます。アメリカの調査では格差が大きい州ほど、人を信頼する人の割合が低いことが明らかになっています(阿部 2011)。人を信頼することができない社会では、暴力や犯罪などが多くなります。実際に格差の大きい社会ほど殺人率が高くなっているのです(阿部 同上)。

私達PIECESでは、誰もが尊厳をもって豊かに生きていける社会を実現するために、どんな環境に生まれ育っても信頼できる人との関係性、安心できる居場所のある社会の仕組みをつくることをミッションとして掲げています。

まずは、現在孤立しがちな子どもたちの周りに信頼できる他者をつくっていくことが、その子の人生はもちろん、社会全体の健康につながっていくと考えています。


※わかりやすく貧困とPIECESの活動を説明していただいている記事「漫画でわかる子どもの貧困!」もあります。ぜひご覧ください。

<参考文献>
阿部彩(2011)『弱者の居場所がない社会ーー貧困・格差と社会的包摂』講談社現代新書.
福丸由佳(2012)「家庭におけるハイリスクの親への支援」日本発達心理学会(シリーズ編)武藤隆・長崎勤(編)『発達科学ハンドブック第6巻 発達と支援』新曜社.
内閣府 平成28年度『子供の貧困に関する新たな指標の開発に向けた調査研究 報告書』
湯浅誠(2017)『「なんとかする」子どもの貧困』角川新書.


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