私たちが向き合う「孤立」という社会課題
子どもたちの生き生きしさは、なぜ失われつつあるのでしょうか。いま、日本の子ども・若者を取り巻く状況には、見過ごすことのできない変化が起きています。
子どもたちの声
頼りたいけれど、頼れない。
誰かに気にかけてもらう経験が少ない。
安心して弱さを見せられる関係がない。
家族がいても孤独を感じていたり、学校の中に信頼できる人がいなかったり、地域とのつながりが薄れていたり。
これまで医療や福祉の現場で出会ってきた子どもたちの中には、日常における他者との関わりや人から大切にされる経験の乏しい子どもが決して少なくありません。
そして、その感覚や気持ちを様々な表現で伝えてくれることがあります。
数字が示す、子どもを取り巻く現状
子どもたちの孤独・孤立を背景にした痛みや息苦しさが、様々な形で数字としても表れています。
令和7年の小中高生の自殺者数は538人※1、令和6年度の不登校児童生徒数は35.4万人※2と、いずれも過去最多を更新しています。
2025年にユニセフが発表した「レポ―トカード16」では、子どもの幸福度を、精神的幸福度、身体的健康、スキルの3つの側面から捉えていますが、日本の子どもたちは、身体的健康は1位でありながら、精神的幸福度は最下位に近い34位という結果になっています。
また、全世代の約4割が「孤独を感じる」※3という現代の社会の中で、子ども・若者の約10人に1人が「相談できる人がいない」と感じていることが分かっています。
※1 厚生労働省/警察庁「令和7年中における自殺の状況(確定値)」
※2 こども家庭庁 小・中学校における不登校の状況について
※3 内閣府(2025)孤独・孤立の実態把握に関する全国調査(令和6年人々のつながりに関する基礎調査)
さらに、「自分自身に満足している」という若者、あるいは「自分の行動で国や社会を変えられると思う」という若者の比率が、諸外国と比して著しく低いことも明らかになっています。
自分自身の存在そのものに対する肯定的な感情や他者や社会への効力感、社会や未来に対する安心感や信頼感を持ちにくい現状が、様々な声やデータによって映し出されています。
なぜ、孤立は深まるのか
このような状況が生じている背景に目を向けたとき、2つの真因があると考えています。
真因①「ただ、そこにいること」が大切にされない社会
何ができるか、何を有するかという「成果」や「能力」で人の価値が測られがちな社会では、「ただ、そこにいること」「いま、ここにあること」が軽視されてしまいます。成果や能力への評価・ジャッジにさらされ続けることで、自分なりのあり様やあり方を見失い、孤立しやすくなります。
真因②「頼ること」がむずかしい社会
効率や生産性が優先される中で、頼り頼られることは「面倒で厄介なこと」と見なされがちです。頼ることを「迷惑」と感じ、他者との関わり合いに不安や恐れを感じてしまう。日常の余白も失われ、その結果、子どもの周りに「どうせ自分なんて」という自己否定や無力感、頼りたいけど頼れないという孤立感を抱きやすくなります。
孤立のループ
孤立が広がる社会の根底にあるのは、「ただ、そこにいていい」という安心感の欠如です。
孤立は、一度生まれると、さらに孤立を深めてしまう循環を生みます。
何かができる自分ではなく、ただそこにいる自分の存在や願いが尊重されること。他者との関わりの中で、その感覚を育むことができるかどうかが、今問われています。
「支援」だけでは、届かない
このような状況の中で、近年国も孤独・孤立への対策を重視し始めています。各地に相談窓口が設けられ、学校などの身近な場所への専門職の配置も進み、行政等の後押しにより支援団体による居場所なども増えてきています。当然、それらが重要な役割を果たしていることは間違いありません。
一方で、子どもが「支援されること」を求めているかというと必ずしもそうではありません。
また、情報の偏りや心理的なハードルも相まって、支援機関や支援サービスを利用すること自体に抵抗感を抱いている現状もあります(子ども家庭庁が公表している2022年度のデータでは、支援機関等の利用希望について「利用したいと思わない」と回答した割合が50.6%)。
おとなの側が、一生懸命「支援しよう」とすることで、かえって息苦しさが生まれているとも考えられます。
また、子どもの孤立は、経済的困窮など限られた一部の環境だけから生まれるのではありません。一見すると「この子は大丈夫」と判断してしまいそうな子どもの中にも、関係性・機会・安心できる居場所等の欠如が重なり合うことで、孤立は生じます。だからこそ、一部の困難な子どもを対象にした支援的なアプローチだけでは限界があるといえます。
孤立の深まりと「子どもの権利」
孤立の深まりによって生じる痛みや息苦しさ。これらは子どもの権利や尊厳といった、当たり前に守られなくてはいけないことが、当たり前に社会に届いていない現状を映し出しているとも言えます。
こども基本法の施行やこども家庭庁の発足により、制度面では子どもの権利を尊重する流れが加速しています。子どもの権利条例が制定されている地域も、全国93自治体にまで広がっています(2026年1月現在)。
一方で、こども家庭庁の調査(2024年)では、「子どもの権利条約を聞いたことがない」と答えた大人は46.8%、小中学生では約6割から8割以上にのぼり、理念が十分に浸透していない実態も明らかになっています。
一人の人である子どもの尊厳が守られる環境をつくるためには、子ども自身だけでなく、まわりにいる大人が権利や人権のまなざしを持ち、行動することが大切です。
子どもたちの安全な環境と選択をつくるのは社会の責任でもあります。
PIECESの視点ー「やさしい間(ま)」が、孤立の循環を断ち切るー
孤立する社会の根底に広がるのは、「ただ、そこにいること」「いま、ここにあること」を大切にするための仕組みや文化の欠如です。
他者とつながる機会・応答的な関係性・安心できる居場所が欠けることで、子どもたちは社会から孤立していきます。
だからこそ、専門家による支援だけでなく、地域に暮らす一人ひとりが「ひとりの人」として子どもや若者と関わること。
その小さな関わりが重なり合うことで、孤立する前に支え合える「やさしい間」が生まれていく。家庭の問題・学校の問題と距離を置くのではなく、誰もが子どもを取り巻く環境の一部です。
私たちは、そんな社会の土壌を育んでいきたいと考えています。
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