事務局長からのお便りVol.9

 
 

こんにちは、PIECES理事/事務局長の斎です。

前回のお便りからあっという間に1か月ですが、皆さんいかがお過ごしですか。
この間、夏休みを取ってリフレッシュされた方、お子さんの夏休みが終わりホッと一息な方などもいらっしゃるかもしれませんね。

私は・・・頑張って走ってます。今年の5月頃から「そろそろホントにヤバい」の一心で、週1~2ペースでのランニングを始めたのですが、なんとか続いています。
何がヤバいのかというと、30代も半ばになり、ここ数年立て続けに腰痛や尿路結石(あれはホントに辛かった…)を発症してしまったという悲しき現実があります。ただ、いざ走り始めてみると、今まで知らなかったまちの風景にも出会うことができ、身体はもちろん心にも豊かさがもたらされていて、当初の危機感だけではない何か走ることへのポジティブな気持ちの芽生えを感じ始めている今日この頃です。

さて、「31日(サイの日)」にのみ更新するこの事務局長からのお便り。
今回は、PIECESが協働パートナーとして関わっている「project HOME」という取組について触れてみたいと思います。
もしかしたら既に知っているよ、寄付しているよという方もいらっしゃるかもですが、PIECES的な視点でこの取組について語る機会はこれまであまりなかったと思うので、是非この機会により関心を持っていただけたら嬉しいです。

ご報告

本題に入る前に、先日8月26日から今期のCforC(Citizenship for Children)のプログラムがスタートしたのでご報告です!

今年もたくさんの方に関心を持っていただき、事前に行った募集説明会には、過去最多の262名が参加。そこから最終的には、基礎コース47名、探求コース32名の方に応募をいただくことができました。
8月26日の初回のプログラムでは、冒頭のチェックインで多くの方から「ドキドキしている」という吐露こそあったものの、プログラムの進行と共に徐々に表情が和らぎ、後半は初めて顔を合わせる人たち同士とは思えない対話や質疑がなされ、初回からとてもとても濃い時間となりました。
会の終了後には、

「子どものことを真剣に考えている大人がこんなにたくさんいると知って、しかも近い地域にいらっしゃることもわかり、すごく嬉しかった」

「すべてのプログラムが受容的で優しい時間でした。出会ったばかりであっても、みんなが意識し、共有できるものがあれば安全な場は作れるのだなぁと思いました」

といった感想の声も聞こえてきて、ここから始まる6か月の学びと変容のプロセスがとても楽しみになりました。
プログラムの募集広報にご協力くださった皆さんには、この場を借りて感謝をお伝えします。本当にありがとうございました!
また、「実はちょっとCforC興味あるんだよな…」という方は、来年度のプログラムはもちろん、年内にも単発で参加できる機会を作れればと思うので、その機会に是非ご参加いただければと思います!

「居場所のない妊産婦」の支援に、なぜ「市民性」が必要か

まず最初に、project HOMEの取組についてご存知でない方もいらっしゃると思うので、簡単に紹介させてください。

project HOMEは、認定NPO法人ピッコラーレが2020年から開始した、困難を抱えた妊産婦(主に10代~20代の若年層)のための長期滞在可能な居場所づくりの取組です。助産師や保健師、社会福祉士などのメンバーが中心となり、衣食住の生活支援はもちろん、心身のケアや利用者を取り巻く環境面の調整なども幅広く担っています。
ピッコラーレは2020年以前から「にんしんSOS東京」という妊娠葛藤相談窓口を運営してきましたが、その窓口を通じて困難を抱えた「若年妊婦」と出会う中で、必要な支援に繋げようとしても既存の制度に当てはまらず狭間に取り残されてしまうという経験を数多くしてきました。「ないならつくろう」という想いで、全国でも先駆的な取組として活動がスタートしたという経緯があります。

実はPIECESとしては、活動開始から遡ること約3年、2017年末ごろからピッコラーレ代表の中島かおりさんらと一緒に構想づくりに関わってきた経緯があります。私自身、大学院の修論テーマとして「妊娠期からの虐待予防」を扱っているなど、このテーマには思い入れがあったこともあり、毎月のように池袋のカフェなどに集まり、組織の枠を越えてたくさんの議論を交わしたことを今でもよく覚えています。



そんなproject HOMEですが、今年で活動開始から丸3年を迎えました。この間、滞在での利用者(期間は、数日~数か月まで様々)だけでも20人を超え、日中の一時的な利用なども含めると、その数は更に多くなります。24時間365日体制で支援活動を行っているだけでも尊い活動ですが、出産して自分で育てる人、出産後子どもを託す人、産まない(中絶)選択をする人など、それぞれの利用者の選択を尊重し、一人ひとりの必要に合わせて、産前だけでなく産後も含めたサポートを行なっているところに、大きな特徴があります。

と、ここまで読んでくださった方の中には、もしかしたら少しの違和感や疑問が生じている方もいらっしゃるかもしれません。いかにも専門性が求められそうな支援のフィールドで、「市民性の醸成」に取り組むPIECESがなぜ、どのように関わっているのかと。
その問いについて、私なりに見えている景色を踏まえて2点触れてみたいと思います。


1つは、妊婦である主に10代の女性に対する視点です。
これまでproject HOMEを通じて出会ってきた方々の成育歴や利用背景に目を向けると、専門的な見立てやケアが必要になるのは言うまでもありません。臨月近くなるまで一度も医療機関で受診できなかった方や、虐待や暴力がある環境で妊娠に至った方などの生活を丸ごと支える上では、妊娠・出産に関わる専門的な知識や対人援助技術などが求められます。

一方で、妊婦である前に一人の人であり、なかなか他者との関係の中で安心や信頼が感じられない環境にいたことを考えると、その隣にいるのは、必ずしも専門職だけである必要はないのではないかとも感じています。

ここにPIECESとしてのこれまでの経験や思想がリンクしてきます。PIECESとしての初期の活動やそれ以前の個々の活動を通じて、複雑な環境の中で生まれ育ち、心に傷を抱えながらも安心して頼れる人がいない、頼っていいことを知らない子ども・若者とこれまで多く出会ってきました。
彼らには関わる他者がいなかったわけではありません。ですが、大切にされる経験が乏しかったり、誰かがふりかざした正義で傷ついたりする中で、社会からの孤立を深めていたのです。
そんな彼らと過ごす日々の中で、自分のことを気にかけてくれる、信じてくれる人の存在があることの大切さを痛感してきました。そして、その存在は、必ずしも専門職や支援者と言われる人たちばかりではありません。むしろ、肩書のない一人の市民としての関わりだからこそ、育める安心感や築ける関係性があることに気づかされてきました。

だからこそ、このproject HOMEにおいても、人がもつ他者への想像力や何かをしたいという想い、そんな「市民性」をエネルギーに変えていけるように、地域の人たちにいかに関わってもらえるか、地域や社会とのオープンなつながりや対話の機会はいかにして創り得るのかという課題に、ピッコラーレのメンバーとともに立ち向かっています。
具体的には、今年度で言えば、地域住民や地元企業の方々がボランティアとして関わるための間口づくりや、学びの機会づくりなどに取り組もうとしています。


もう1つ、産まれてくる子どもに対する視点というのもあります(前提として、project HOMEの取組では、子どもを産む・産まない、どちらの選択肢も本人の自己決定の結果として尊重しています)。
こちらはより感覚的なことかもしれませんが、産まれてくる子どもの視点に立った時、そこにたくさんの人が関わっているというのは本当に豊かなことだと感じています。

これは、つい最近私自身が体験したことですが、先日私が幼児期を過ごした教育機関(幼稚園のようなところ)が一般向けの展覧会を開催していたので、足を運んでみました。すると、驚いたことに、私の名前を聞きつけたスタッフの方が「もしかして、あの斎さん?」と声をかけてくれたのです。それも一人や二人ではありません。在籍していた当時の職員さんや、母親と今でも交流がある方などが次々と声をかけてくださり、当時の私との思い出話やきょうだいの話などをしてくれました(当の本人は何ひとつそのエピソードを覚えていませんでしたが笑)。
その時に話した方の多くは、名前を聞いても思い出せないような人がほとんどでしたが、それでも小さい頃の自分を知ってくれている人が、家族親戚以外にこれだけいたんだと理解したときに、妙な温かさのようなものを感じた時間になりました。


project HOMEを通じて出会う妊婦の方々、そして産まれてくる子どもたち、どちらにも言えることかもしれませんが、project HOMEでの出会いや経験によって、自分や他者のことを大事にしたいなと思えること、困ったときには誰かが助けてくれるかもしれないと思えること。
あるいは、ふとしたときに「〇〇さん」の存在が思い浮かぶ、そんな感覚が広がっていくことを目指していけるといいのかなと考えています。
さらには、できる限り多くの人たちがこの取組に関わっていく中で、関わった人のまなざしが変わっていく。そこから少しずつ、地域の、そして社会のまなざしが様々な背景を持つ妊婦や子どもたちにとって優しく温かなものになっていく。そんな未来のために、これからもピッコラーレの皆さんと手を携え、project HOMEを展開していければと願っています。

ということで、今回は、project HOMEの取組、そしてそれがPIECESの掲げる「市民性の醸成」となぜ、どのように重なるのかというお話をさせていただきました。
これを機に、若年妊婦を取り巻く状況や、project HOMEの取組について関心を持っていただけたら嬉しいです。そして、もし良ければ関心を行動に移す最初の一歩として、ピッコラーレの寄付サポーター(通称:ピコサポ)になって、活動を応援してもらえたらより一層嬉しいです!

▼ピッコラーレの寄付サポーターについて
https://picosapo.piccolare.org/

さいごに・・・

現在PIECESでは、「#問いを贈ろう」という啓発キャンペーンを実施しています。
2021年から始めたこの取組も、今年で3年目。今年は、8月15日~9月21日までの約6週間、全部で17の問いをSNS上でお贈りしています。

「問い」によって、自分のこと、周囲のこと、社会のことを立ち止まってみつめたり、想いを馳せたりする。そのひとときが豊かな明日や未来をつくっていくための力になるという想いで取り組んでいます。

PIECESがSNS上で発信する問いにお返事いただくのはもちろん、キャンペーン特設サイト上では著名人をはじめ、いろんな方の問いへのお返事を覗いてみることもできますので、それぞれに合った形でご参加いただけたらと思います。
また、9月の1週目と2週目の週末には、リアルな空間で問いに触れていただける展覧会を都内で開催します。お近くにお越しの際は、是非お立ち寄りくださいね。

▼#問いを贈ろう 展覧会 ”問いのほこら展”
https://toinohokora.peatix.com

それでは、今回はこのあたりで終わりにしたいと思います。
今年の残暑もなかなか厳しそうですので、どうか皆さんご自愛ください。
また31日にお会いしましょう!