【CYWずかん】「まっすぐじゃなくていい」一緒に「寄り道」をすることで、子どもたちの自分らしさを 引き出す関わり方

 初めまして。矢野令子です。文章を書くことに挑戦したい、新しいことを始めたい、と考えていたときに、コミュニティユースワーカーずかんを知りました。PIECESの子どもの孤立問題に取り組む姿勢に共感し、ライターとして参加することとなりました。よろしくお願いします。

 

 今回インタビューした岩田さんは、現在立教大学に通う大学生。大事な人の不登校をきっかけに、孤立の問題に直面し、PIECESを知ったそうです。現在は要町にある事務所で、不登校の子どもたちと継続的に会って一緒に時間を過ごす活動をしています。


 家族思いで、穏やかで落ち着いた雰囲気の岩田さん。今回は彼女と子どもたちの関係について伺いました。

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不登校から来る不安に寄り添い、その子と一緒に、苦しみを忘れられる日常を作りたい

 岩田さんが高校3年生の時、岩田さんの大事な人が不登校になりました。

彼が「学校」という1つの社会から切り離されたことにより、孤立し、不安を抱えていく様子を見て、誰か頼れる存在があれば、と岩田さんは考えました。


 岩田さんは最初、PIECESとは別の団体で不登校の子どもたちに対する学習支援もしていました。学習支援の場において、学びの中で子どもたちの可能性を引き出すことも重要だという気づきをたくさん得られたとのことでした。
ですが、子どもたちの抱える「孤立」という問題に対して、彼らが暮らす日常にさらに入り込んで関わりたいと考えた岩田さん。
もっと、孤立という不安を抱えた彼らに「寄り添う」存在がいれば...。そんな思いを抱いた
岩田さんが不登校に対して活動している団体を探して見つけたのがPIECESだったそうです。


では、岩田さんはなぜPIECES、そして今の活動の仕方を選んだのでしょうか。

“一時期学習支援とかも別の団体でしていた時期もあったんです。でも、学習支援よりは、不登校の子どもたちと事務所で一緒に料理を作ったりとか、トランプしたりとか、一緒にバイトしたりとか、ある意味その子の日常を一緒に作っていくというところに面白いなっていうのを感じたんです。本当だったら、友達とか家族と一緒に作る日常なのかもしれないけど、そこを家族でも友達でもない第3者の斜め上の私たちが、一緒に行うことに面白みを感じているからやっているのかな。”


コミュニティユースワーカーになり、岩田さんは一昨年の9月から、不登校の子どもたちの家庭訪問に行ったり、主に不登校の小・中学生が、学校に復帰できることを目的として運営されている、適応指導教室に行って、そこに通う子どもたちと関係性を築く、という活動をしていました。


ですが、適応指導教室は主に義務教育の小中学生を対象として運営されています。高校生は主な対象とはなっていません。

それまで関係を築いてきた子たちが、中学校を卒業し、高校生になってからも、また不登校が解消した後も、いつでも帰ってくることができる場所を提供したい、そんな思いを岩田さんは持つようになりました。


そして、そんな思いを抱えた岩田さんは現在、PIECESで、不登校であった子や現不登校の中高生の子と、放課後15時ごろに事務所に集まって、一緒にゲームをしたり、おしゃべりしたり、夕飯を一緒に食べたりしています。


事務所を訪れる不登校の子どもたちに対して、日常を一緒に作る存在、一緒に楽しむことができる人、という立場を意識して活動している岩田さん。大人として子どもを導くというよりも、同じ目線に立って何かを共有することを楽しむ岩田さんは、子どもたちにとって肩肘張らなくても良く、居心地が良い存在なのでしょう。

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「頼るハードルを下げる」ことで築いた、子どもたちとの信頼関係

 今PIECESで関わっている不登校経験のある子どもたちは繊細で人の気持ちに敏感で優しい子が多い、と岩田さんは言います。感受性が豊かで、相手の気持ちなど、人よりも何倍も感じ取りやすいぶん、不安になったり、傷ついた経験がある子どもたち。

 彼らの多くは、頼ることに対して苦手意識であったり、人を信頼することに不安を持っていることが多いです。そのため、繊細で人と接して傷ついた経験をもつ子どもたちは、岩田さんに対して、最初はオープンに接してくれなかったそうです。

“話してはくれるけど、表面上のコミュニケーション。その場だけでは会話してくれるけど、深く関わっていなかった。”

そんな彼らに接する時、岩田さんは「頼るハードルを下げる」ことを意識していると言います。

“最初関わった時も子どもたちがトランプをやってて。私もトランプに入って、ちょっと関わった。そのときちょっとボケたりとか、気軽に突っ込んだり、会話できるようなきっかけみたいなものを意識的に作っていきました。そういうところで、気軽に相談できるとか、会えるとか、とにかく立ち寄れるハードルを下げていった。”


子どもたちの岩田さんとのコミュニケーションへのハードルを下げることを意識しながら、継続的に会うようにする中で、子どもたちの態度も変化していきました。


現在では子どもたちの方から連絡がくるほどの信頼関係を築いています。


受験生のさきちゃん(仮名)から、「受験期でメンタルが弱っていて、すごくしんどいので、会いたいんですけど会えますか?」という内容の相談をされたこともあると言います。受験に対するプレッシャーで潰れてしまう前に、さきちゃんが連絡をくれたことに対して、信頼関係ができてきたのかな、と岩田さんは嬉しく思ったそうです。


他の人を頼ること、信頼することが苦手な不登校の子どもたち。そんな彼らに、気軽に接しても大丈夫であることを、岩田さんは行動の中に示していきました。時間をかけて接するうちに、子どもたちは、最初は閉ざしていた心を、徐々に開くようになっていったのです。

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自分らしさを発揮できる居場所としての、コミュニティユースワーカーと会う時間

不登校の子どもたちと信頼関係を構築できたことで、彼らは安心して岩田さんに自分らしさを見せられるようになっていきました。

例えば、みゆちゃん(仮名)は、人前だと言葉につまってしまってうまく話せず、おとなしそうに見えていました。しかし関わっていくうちに、実はいろいろなことを考えていて、おしゃべりが好きで、ユーモアがあることを岩田さんは発見しました。

こうして、みゆちゃんは岩田さんと関わる中で、自分を表現できるようになっていきました。

“話したいけどそれができない、みたいな葛藤を抱えていた子が、私と関係を作って行く中で、自分らしさを表現してくれるようになっていったのは、1つの大きい変化。
かつ、私だけじゃなくて他のPIECESの大人に対しても、安心して自分のことを表現できるようになっていった姿を見た時に、ここがみゆちゃんらしさを出せる場になっていったんだなって感じました。”


岩田さんを信頼して、みゆちゃんは、本当の自分を表現することができるようになりました。岩田さんの話をきいて、安心して信頼できる存在は、子どもたちにとって、必要不可欠な居場所であるのではないか、と感じました。

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まっすぐじゃなくていい 一緒に寄り道できるような関係

不登校の子どもたちにどんな声かけをしますか、と伺うと、岩田さんはこう答えてくれました。

“親とか学校とかもそうかもしれないけど、まっすぐ生きなきゃいけないとか、そういう感覚に押しつぶされそうになったことがある子が多いのかなって思います。
声かけとしては、まっすぐじゃなくていいというか、寄り道してもいいというか。
まっすぐじゃなきゃだめ!みたいな感じで苦しんでいたから。”

繊細だからこそ、「休まずまっすぐ生きなければならない」という感覚に押しつぶされそうになった経験を持ち、不安を感じている不登校の子どもたち。

そんな子どもたちを連れ出して、「あの道面白いじゃん!」と声をかける。その子のペースに合わせて寄り道をする。例えば、事務所で一緒に遊んでコミュニケーションをとったり、その子の行きたいところに一緒に行って楽しんだり。そんな関わり方をしている、と岩田さんは話してくれました。


「寄り道」、それは、休まず頑張るべきだ、と張りつめた心をとかす力を持った言葉だと私は思います。きっと岩田さんのこの考えが、活動を通じて子どもたちにも伝わり、学校を休んでいることにもやもやした思いや息苦しさを抱えている彼らを癒すのでしょう。


子どもにかかわらず誰でも、まっすぐ進めなくなるときや、プレッシャーに耐えられなくなるときがあります。そこを否定しないで受け入れ、でも放置はせずに新しい道を提示する。岩田さんはそんな形でコミュニティユースワーカーとして、子どもたちに寄り添い続けているのです。


※岩田さんが中心となって進めているプロジェクトのクラウドファンディングはこちらです。
ぜひcheckしてみてください。
【PIECES PROJECT】不登校の子どもたちがいつでも再出発できる居場所を - CAMPFIRE(キャンプファイヤー)


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writer

お茶の水女子大学文教育学部人文科学科 
哲学・倫理学・美術史コース2年

矢野令子(やのれいこ)

食べることが好きで、たまに都内の学食に出没する。所属しているサークルでは主に東欧の踊りを踊っている。踊っている曲の中では簡単で楽しい雰囲気のものが好き。占いは自分の運勢がいいものだけ信じがち。
同じ学科の友達からPIECESの活動を知り、ライターとしての活動を希望。