公開講座

セミナーレポート|子どもの孤立を防ぐ、コミュニティのつくり方 〜なぜそこには「つながり」が生まれるのか?〜

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1月17日(日)、「子どもの孤立を防ぐ、コミュニティのつくり方 〜なぜそこには「つながり」が生まれるのか?〜」として、NPO法人ハンズオン埼玉理事であり、コミュニティワーカーの西川正さんをお招きして公開講座を行いました。

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講師:西川正

NPO法人ハンズオン埼玉理事
学童指導員、出版社、NPO支援センター事務局長などを経て、2005年、特定非営利活動法人ハンズオン埼玉を設立。毎年数千人が参加する「おとうさんのヤキイモタイム」キャンペーンや、コロナ禍中では「翔んでさいたマスクプロジェクト」など、市民参加型のまちづくりのプロデュースに関わる一方で、まちづくりや子育て支援にかかわる研修などで講師やファシリテーターとして活動。朝日新聞『天声人語』、NHK『課題解決ふるさとグングン』などでとりあげられる。

◆講座内容

講座は以下4つのセクションに分けて進められていきました。


・まちづくりの取り組み

最初のパートでまず話していただいたのは、これまで西川さんが行ってきた活動についてです。これまで西川さんが実際に行ってきた場づくりの事例から、遊ぶと学ぶの場づくり(人がつながり動き出すのはどんなとき?どんな場所?、何かをしてみようと思える環境とは?)についてお話しいただきました。

・取り組みの背景にある課題意識

ここでは、西川さんが活動を始めたきっかけであるお子さんの保育所時代の話から、西川さんの課題意識について話されました。保育サービスが産業化したことにより、利用する保護者は「トラブルはごめんだ」「先生、きちんと監視して」という態度になり、保育士側もサービスを提供する側として振る舞って緊張感が常にあります。その結果、保育士と保護者、保護者同士も孤立していくのではという話をしてくださいました。その上で、「応える」ということを大事にして場をつくっているという話がありました。場の作り方次第で、そこに来た人はお客さんにも、当事者にもなる。そこにいる人たちで何か一緒にできることはないかという視点を持つことの重要性が語られていました。

・対談①~あそびとつながり~

講師の西川さんとPIECESの斎、そしてNPO法人セカンドリーグ茨城の横須賀さんの3人で「あそびとつながり」について対談をしました。

「つながりは関係性のことであり、関係性は作るものではなく、生まれるもの」と西川さんは話されていました。そして、関係性が生まれるためには「一緒に」何かをするということがポイントであり、「一緒に」何かすることで試行錯誤し、その結果として関係性が生まれてくる。その試行錯誤やトラブルが起きることが大切だと話されていました。その他にも、苦情に対する姿勢や日頃出会えない人との出会い方についても話されていました。

・対談②~共に育つ、共にある~

前のセクションに続き、3人で対談をしました。

ここでは「共にある」ということをテーマに、「お客さん」から当事者に変えていくということについて話されました。当事者に変えていくためには、その人自身が工夫をするということが必要になってきます。そこで、場やプログラム自体に工夫する余地があるかということ、そしてその人自身に工夫する力があるかという2軸から、参加のデザインについて西川さんから話されました。

また、子どもたちとの関わりについてもお話をされました。

木登りの例が出て、「左足をそこにおいて、そしたら右手はここ!」とたくさんサポートをされながら登っても、ハラハラドキドキするような楽しみはあるのかという話が紹介されました。そのように、何かする人の横にいる人はどう振る舞うのか。それによって「共に」なのか、一方通行の「ために」なのかということが変わっていくという話もありました。

<公開講座当日の様子>

◆当日の質疑応答の様子

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当日は講義動画をそれぞれで視聴した後に、数人ごとで感想共有を行い、全体で質疑応答を行いました。

質疑応答では「中学生と大人で話す機会を作っていた、トークフォークダンストークで、大人側への質問、子どもへの質問で意識していることはありますか」「失敗例や砕けてしまった例はありますか?」「西川さんが、人と人が会うデザイン(七輪とか焼き芋とか)を思いつく時って、誰の顔が思い浮かんだり、もしくは何を思ったりしていますか。」「参加をデザインすることについて、そのデザイン力は、学んで得られるものなのか?センスか?遊び心か? 何かいい方法がありますか。」といった多くの質問が参加者から寄せられました。


質疑応答の中で、「活動を広げていくときに、人を巻き込むときにどのような工夫をしていますか」という質問に対し、西川さんは以下のように答えてくださいました。

「やっている人がとにかく面白いというか、楽しいと思えるかどうかということを気にかけてやっています。そうすると、その人が大事にしている人に声をかけてくれる。でも、やっている人がつまらないなとか、しんどいなと思ってやっていたりすると、友達を誘えない。自然に(友達を)誘ってもいいかなと思えるようにするというのが一番。それをやっていると、例えばPTAをやっていても、今の人たちが楽しいということをやっていれば、翌年の役員がすぐ決まる。今年は面白そうと噂が人がって、手をあげる人が出てくる。そういうことだけを気にしている」

まずは楽しんでいくこと、そして「共に」何かをするということから、つながりが生まれていく。西川さんの事例や話は、どれも参加してみたいというあそび心があり、余白があります。その余白は、工夫する余地ということであり、ゆるやかに人と人とが結びついていく地域になるのだと思いました。

◆感想

以下、参加者からの感想です。

・「ボランティアコーディネーション」ということを初めて知りました。「ピンチはチャンス」「for子どもではなく、with子ども」「保育も福祉もサービス化している印象」「苦情=寂しいという想い」「子どもは準備されすぎ、大人は準備し過ぎ」というワードが印象に残りました。

・ゆるい糸をはっておく、何か緊急なことが起きたら、糸を張る、というのが印象的だった。最近、自分の中で、コミュニティ作りは「人の日常生活の延長線上で」という意識が強くある。西川さんの取り組みは、まさにそれに当てはまるのだけど、「日常生活の延長線上のデザイン」の解像度をあげてくれる話だった。サービスを受けるところは受ける。受けない、もしくは受けられないところは、自分でなんとかする。そこのはっきりしている境界線をぼやかしていくことがコミュニティ作りかなと思った。

・つながりは作るものではなくて生まれるものであり、つながりが生まれる場をどうやって一緒につくっていくのかという考えがとても深く残っています。また、苦情が来たら仲良くなれるチャンスととらえていたり、苦情を苦情のまま捉えてそれが来ないように活動するのではなく、その背景にある「仲間に入れて」というメッセージを感じ取って、一からその人と関係性を作っていくということにとても納得しました。どのような形でも興味を持ってくれていることに変わりはないので、そういった人を巻き込んで一緒に取り組むことでつながりが生まれるのかなと感じます。


セミナーレポート|まちの風景から眺める、子どもの暮らしと市民性

まちの風景から眺める、子どもの暮らしと市民性

12月6日(日)、「まちの風景から眺める、子どもの暮らしと市民性」、九州大学大学院人間環境学研究院専任講師の田北雅裕さんをお招きして公開講座を開催しました。

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講師:田北雅裕

九州大学大学院人間環境学研究院 専任講師

 

◆講座内容

講座は以下4つのセクションに分けて進められていきました。

・まちの風景から眺める

最初のパートでまず話していただいたのは、田北さんのこれまでの経歴やまちづくりの姿勢についてです。これまで田北さんが実際に行ってきたまちづくりの事例の紹介を踏まえながら、まちづくりに取組む姿勢として、一人ひとりの市民が役割を越えて困難な状況を乗りこえる「つながり」についてお話いただきました。

・まちの広がりの中で

ここでは、「ひとりの市民となる」、「グレーゾーンの子どもたち」というタイトルで、「一市民」によるまちづくりの可能性について話されました。特に印象的だったのは、ショートステイ里親についてのお話です。平成29年のデータでは、児童虐待相談対応件数のうちの約96%の子どもたちが、親子分離をせずに在宅で過ごしているということが示されていました。つまり、多様で幅のあるリスクを抱えた子どもたちはそのまま「まち」で暮らしているということです。田北さんは、その子どもたちのリスクがエスカレートしないよう予防するとともに、代替養育と在宅支援のスムーズな連続性も必要とされるとお話ししてくださいました。そこで、一時預かりとして、ショートステイ里親という制度を紹介してくださいました。

・対談①~まちづくり×子ども~

講師の田北さんとPIECESの斎、そしてNPO法人セカンドリーグ茨城の横須賀さんの3人で「まちづくりの視点から見る、子どもへの関わり」について対談をしました。

子どもを守るという意思、「子どものため」とされているからこそ、社会の中に切実な子どもの情報が出てこない構造があると田北さんは話されていました。

例えば、虐待がある子ども達を地域で守る組織があるとき、その組織では守秘義務があり、子どもや家庭情報が外に出ないようにしているとします。情報が漏れることで、子どもが危険な目にあったり、不都合が起きたりするかもしれないからです。そうして、組織外の人、つまり地域の人には「困りごとを抱える子どもたち」が非常に見えづらい状況が作られていきます。

そのような状況があるなかで、同じ地域に住む私たちはどのように子どもたちに関われば良いのかという話題になりました。そこで田北さんは、時々会うような人がいる、キャッチボールをする、ただそれだけの関係がその子にとってはかけがえのないということもあるとお話しされていました。長い時間をかけていく中で、ある面では自分の専門性が発揮されたり、ある面では違う側面が出てくる。些細に思える関係性や関わり方でも継続して関わっていくことで変化していくこともお話しされていました。

・対談②~まちづくりで大切にしていること~

前のセクションに続き、3人で対談をしました。まちづくりや関わり方について考えたとき、良い/悪い・正しい/正しくないといった価値基準だけではなく、その人やまち、コミュニティにとって必要な「ふさわしさ」があるのではないかという観点についての話題が出ました。田北さんは、「例えば、デザインであれば、新しいものやインパクトがあるものが良いとされがちです。そういう観点はこちら側の価値基準であることが多く、リスクが高い」と言います。新しくなくても、古びた関わり方であっても、その人が救われるなら、それが「ふさわしい」関わりなのではないかと言葉を続けてくださいました。

<公開講座当日の様子>

◆当日の質疑応答の様子

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当日は講義動画をそれぞれで視聴した後に、数人ごとで感想共有を行い、全体で質疑応答を行いました。

質疑応答では、「何か子どもたちと関われないかと養護施設の方に相談した時に、その方の言葉で躊躇してしまったことがある。里親へのケア、行政はどこまで対応してくれるのか」、「福岡市の「みんなの里親プロジェクト」は、子どもたちからはどんな反応があるか。また、それをうまくいかせるために、どんな工夫をしているか」、「親が困り感がない(けど親御さんがおそらく困っている様子は子どもも感じていて、実際に養育にも影響が出ているように感じる。)場合、介入方法によっては有難迷惑になったり、家族を傷つけることになりそうですが、どんなことを気を付けて介入しているか」といった多くの質問が参加者から寄せられました。


質疑応答の中で、「デザインの視点を、わたしたちひとりひとり(デザイナーではない市民)が、実践の中に取り入れていくには、まず最初にどんなことに気をつけたら良いか。またどんなポイントがありますか?デザインや、ランドスケープデザインの両方の観点から知りたい。」という質問に対し、田北さんは以下のように答えてくださいました。

「みんな人を見過ぎている。人の問題に向き合うからだと思いますが。僕は川の流れを見るだけで穏やかになれた。そういうことから対人関係が柔らかくなったり。風景やランドスケープを考えた時に、人以外のものと向き合いながら、人との関係を変えていくということがある。実際皆さんもそうしていると思う、音楽聴いたり。でも、人と人との関係になった時に、人にばかり向いてしまっている。対人援助という言葉に引っ張られて、ちょっと人に向き過ぎな感じがある。その時に風景とか、人以外のことに向き合うことで、別の関係性が見えてきたりとか。そういうことは風景的視点なのかなと思います。」

人と人との関係性という言葉には、向き合い過ぎてしまうがために難しさがあったり、硬直してしまうことがあるのかもしれません。そういうときに相手にばかり目を向けるのではなく、一緒に何かするという形で視点をずらしてみる。そうすることで、相手も自分も心地よい関係性が生まれていくのかもしれません。

◆感想

以下、参加者からの感想です。

・まちづくりという言葉やまちの定義が、元来自分が思い込んでいたのは、社会的な規範があってそれに沿った公共的なもの、と言うイメージだったが、田北さんは、そもそも公共とは零れ落ちる人が出ないように、そこで生きている多様な人や価値観みんなが存在して良いのだと肯定して、全ての人を受け入れる余白や余裕=優しい間があることがふさわしい、と考えてまちの課題解決→里親を増やすことで、零れ落ちる子どもにまちのみんなで手を差し伸べようとされていること。そんな優しいまちが理想の風景のあるまちだと思うし、現在申し込んでいる、プロジェクトコースでも学ばせていただく点が沢山あると感じました。

・今現在、子育て以外で主に子どもと関わるような活動はしていないのですが、CforCがはじまって以来、子どもと関わることとは?自分にできることとは?なにかやりたい!という気持ちの中にチラ見えする「はじめるべき」と思っている部分……

そんな自分がすごく気持ち悪いなぁと思い始めていたので、田北さんの仰っていた「子どもに出会いにいくっていうのは不自然」というお話が印象的でした。これを伝えたところ、「そこの違和感に気づいただけでオールオッケー。これからも何か判断していく時の糧になる。ただその「子どもに出会いにいくっていうのは不自然」という言葉に囚われすぎないように」という言葉をいただきました。なんかCforCをせっかく受講したのに、という気持ちと自分自身の何もできてなさに(ネガティブになっているわけではないですが)少しモヤモヤしてたので、嬉しい言葉をいただいたなと、、

・私も、辛い時やしんどい時は海に行って無心で波音を聞いていました。これも風景に助けられてたんだなと感じます。話さなくても一緒に山に登った、海を見た、星を見た、そういう経験から寄り添えることもあると実体験から感じました。もっと風景について聞いてみたいと思いました。ありがとうございました!