子どもにとっての「遊び」を紐解く 「Citizenship for Children in 水戸」第5回公開講座 & CforCゼミレポート

PIECESが茨城県水戸市で行う、子どもと関わる市民育成プログラム「Citizenship for Children in 水戸」

これまでPIECESは首都圏を中心に市民育成プログラム(旧名:コミュニティユースワーカー育成プログラム)を開催し、1〜4期で計約50名の子どもと関わる市民を育成してきました。

今回は全国展開に向けての第一歩目となる水戸市でのプログラムで、「セカンドリーグ茨城」さんとの協働で実施しています。

首都圏に限られていた活動範囲を全国に拡大し、各地にいるかもしれない「孤立した子どもたち」と優しい関係性を紡げる大人を増やしたい。

そんな想いから全国展開を目指し、まずは1拠点目、茨城県水戸市で12人、6ヶ月間の「Citizenship for Children プログラム(以下CforC)」を実施します。

これまでの4回では、子ども・若者の育ちの理解や困難を有する子どもたちへのまなざしなど、一市民として子どもに関わる上で土台となる価値観や知識について、延べ100名近い方々と一緒に学んできました。(第四回目のレポートはこちらから

今期の後半にあたる10月から12月にかけては、引き続きフィールドの異なる実務家・専門家の講師をお招きして、さらに一歩踏み込んで「市民性を大切にした子ども・若者支援」について考えていきたいと思います。


今回で第5回目となる今期の公開講座。晴天の中、たくさんの方々に集まっていただくことができました。

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午前の公開講座は、一般社団法人プレイワーカーズの神林俊一さんが講師を担当。被災直後から気仙沼に入り、復興までの混乱の中、プレーパークの運営を通して子どもたちやその家族に寄り添い続けた。3.11の被災直後から気仙沼に入り、復興までの混乱の中、プレーパークの運営を通して子どもたちやその家族に寄り添い続けた神林さんから、子どもにとっての遊びや、子ども・若者にとっての居場所の意味を学びました。

プレイワークと遊びの背景

プレイワークとは「子どもがいきいきと遊ぶことのできる環境をつくる」こと。子どもが自発的にいきいきと遊べるよう、時間・空間・環境づくりなど、多くの子どもと関わる専門職に共通する概念です。1980年代にヨーロッパで生まれた専門分野であり、今ではデンマークやイギリスを始め、多くの国で子どもが関わる場所で、専門知識を備えたプレイワーカーが活躍しています。

そもそも日本における子どもの「遊び」はどのようなものなのでしょうか。まず背景には「遊び」という概念自体の変化があると神林さんは話します。現在、子どもの遊びの9割を占めているのが電子ゲームとのこと。子どもの遊び方はどんどん「創造するもの」から「消費するもの」に変化してきていると言うのです。遊びにはお金がかかる・時間がかかる・場所がかかる。一方で、公園などの公共施設でも、大人が設定したルールにより子どもが思う存分遊べずにいるのが日本の遊び場の現状だと話します。

少子高齢化が加速する日本では、それこそ「少子化」(子どもが少なくなる)ならぬ「多大化」(大人が多くなる)ことが問題視されてきています。このような現象が加速すれば、今まで以上に子どものための遊びの空間が減少してしまう。神林さんはこの現象に大きな危機感を感じていると話します。

「遊び」は追体験の整理になる

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子どもの「遊び」はどれほど重要なのか。震災等によるトラウマを抱える子ども達にとって、「遊び」は追体験の整理になると神林さんは話します。例えば、1995年の阪神淡路大震災後、「地震ごっこ」「津波ごっこ」と言い遊びを行う子どもを目の当たりにしたと神林さんは言います。大人からすると不謹慎な行為も、子どもからするとそれは一種の心のケアだったのです。

2011年に起きた東日本大震災。震災1ヶ月後、被害を受けた宮城県の気仙沼に神林さんは訪れます。被害を受けた現地の子ども達と何かできないか。そこで神林さんは「気仙沼で何か一緒に作ってみないか」と子どもたちに提案をします。別に物資を提供するわけでもなく、ただ何か作ってみようと言う神林さんに、最初は警戒を示す子どもたち。しかし子どもたちとの会話の中で生まれた「すべり台を作ろう」というアイデアを機に打ち解け始めます。みんなで資材を持ち集め、すべり台を作り出したその場所は、のちに「気仙沼あそびーばー」と言う遊びの空間として運営開始したのです。

遊び場を創る上で、神林さんが大事にしていること。それは、そこに住んでいる子どもたちが自ら作りたい、と思っているものを応援することだと言います。

遊ぶことは生きること

食べ物を食べないと体が死んでしまう。睡眠をとらないと体が死んでしまう。しかし遊ぶことをやめると心が死んでしまう。子どもたちにとって遊ぶことは生きるために必要不可欠なのです。少子高齢化社会の日本だからこそ、大人の都合だけで空間の使い方を決めるのではなく、きちんと子どもたちと向き合い、目に見えない心のケアにしっかりと寄り添える大人になりたい、そう強く思った午前のひとときでした。

【ゼミ】

午後のゼミ開始前に、「キャット&チョコレート」というカードゲームでウォームアップ。日常・非日常的な問題に対して、与えられた手札の中から指定された枚数のカードを使って解決策を導き出すゲームです。アウトプットが中心の午後セッションに入る前に、創造性を刺激しました。

五回目となる今回は、「子どもたちと自分たちが楽しい関わりをデザインする」ことをテーマに行いました。支援者―被支援者という従来の枠組みから外れて創造的に考える実践をするため、「クリエイティブケースワークショップ」と題して新しいケース会議をシミュレーションしました。

実際のケースを3つ選び、「その人の持つ強み」に着目するストレングス視点からその子どもと伴走していくために何が可能かを考えました。その子の周りにある社会資源(世話好きな近所の大学生など)と参加者の持つ資源を持ち寄って、その子の願いや思いに沿った関わり方を創っていきました。

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この日のワークの成果物

その後グループリフレクションを行い、プロセスレコードと今日の学びを振り返りました。実際のケースに深くかかわる経験をしたこともあり、内側から浮かび上がってくる感情や思いと向き合う姿がとても印象的でした。「どんな時も絶対正しい答え」がない子どもとの接し方を振り返る中で内面の葛藤と向き合いながら答えを模索していく時間となり、優しい間はこういう対話の中から生まれてくるのではないか、と思わされます。

7月から続く本プログラムも、いよいよ次回で最終回となります。6回のゼミ活動と公開講座を経験して、CforC参加者はどのような学びや気づきを得て次のアクションへとつながっていくのでしょうか。最後まで、お楽しみに!