執筆:小澤いぶき

日本における15歳未満の人口の割合は、11.6%(2022年)と世界で最も少なく、それゆえに周縁化されてしまう可能性が高い現状ともいえます。だからこそ子どもたちが、自分たちに関わることを自分たちで考え、育んでいける環境が大切です。こども基本法が施行された今、あらためて子どもたちのウェルビーイングについて考えていきます。


子どもの権利条約・4つの権利

すべての子どもは、尊厳と人権を尊重される権利を持ちます。1989年に国連で採択され、現在194カ国が批准している「子どもの権利条約」。「差別の禁止」「生命、生存及び発達に対する権利」「児童の意見の尊重」「児童の最善の利益」の4原則をもとに、子どもの権利を保障しています。日本では子どもの権利条約の精神に則り、子どもの権利がまもられる社会の実現をめざす「こども基本法」という包括的な法律が、2023年4月1日から施行されました。


子どもの権利と
ウェルビーイング

ウェルビーイングは、身体的、精神的、社会的に満たされている状態であり、疾病の有無に関わらず、全体的に「良好な、その人にとってちょうど良い状態」を表す包括的な概念とWHOでは定義されています。国連で子どもの権利条約が採択されたのを機に、最低限度の生活ではなく、子ども個人の尊厳と人権を尊重し、人間的に豊かな生活の実現を図るウェルビーイングの概念へ転換が進みました。そのあと発表されたユニセフレポートカード16では、子どもの権利条約に定められている「子どもたちの意見表明の機会および意思決定への参加」が、幸福度にも成⻑にも不可欠であることが記されています。近年では、ウェルビーイングは自分の置かれた状況や人生を通して揺らぎ、変化する概念として捉えられています。子ども時代のウェルビーイングや心の状態はその先の人生に影響するからこそ、子どものウェルビーイングを大切に捉えていくことが必要です。


日本の子どもたちの現状

出典:ユニセフレポートカード16『子どもたちに影響する世界 先進国の子どもの幸福度を形作るものは何か』2020年


複層的な要素で形成される
子どもの環境

日本の子どもの「精神的幸福度」は、調査国38カ国のうち37位と非常に低い数値が示されています。ユニセフレポートカード16では、子どもの幸福度は、子ども自身の行動や人間関係、保護者のネットワークや資源、そして公共政策や国の状況から影響を受けることを示す、多層的なアプローチをとっていると書かれています。つまり、子どもの幸福度には、子ども自身だけでなく、子どもの周りの友人・知人、家族、政府、地域社会が影響しているということです。そして子ども自身が自分の周りに影響を及ぼせると感じられるためには、日々の暮らし、地域、学校などの中で声が聴かれて反映される経験が必要です。


誰もが子どもを取り巻く
社会をつくる一員

子どもの幸福度には様々な要素が関わっているからこそ、子どものことを家族の責任や限られた枠組みだけで捉えるのではなく、社会に生きる私たち一人ひとりが関わる問題として捉え、向き合っていく必要があります。私たち一人ひとりの「何かしたい」という思いや違和感、願いは市民性の大切な種であり、子どもも自分も社会もウェルビーイングな状態を試行する大切な入り口です。子どもを、そして誰もを一人の人として大切にしあう社会の営みが生まれるように、PIECESはこれからも様々な人や団体とともに市民性の醸成に取り組んでいきます。


一人ひとりのもつ市民としての
力がつながり広がる市民社会へ

 

渋澤 健さん

シブサワ・アンド・カンパニー株式会社 代表取締役
コモンズ投信株式会社 取締役会長

 

PIECESは、子どもたちを一人の人として大切にする社会を育むため活動しているNPOです。人としての根源的な欲求や権利は、幸せを求められることだと思っています。その幸せを感じるときとは、自己実現が満たされている状態でありましょう。ただ、自己実現とは一人でできることでなく、多く人との関わりがある社会が必要です。NPOの基本的な存在意義に、一人ひとりのもつ市民としての力がつながり広がる市民社会の育成があります。小さな笑顔が他の笑顔へとつながるように、小さな寄付も他の寄付へとつながるように、私はPIECESを応援し続けます。皆さんも、ご一緒にどうぞ。