私たちがこれまで実施してきた、Citizenship for Childrenという市民向けの半年間にわたる研修プログラムでは、子どもたちや地域のためになにかしたいという願いをもった方々とのたくさんの出会いがありました。私たちは、そうした出会いの中で、私たち自身も変化し続けながら、地域や子どもたち自身の中にある、未来への願いを探求してきました。
◯ 一人ひとりが自分の手元から社会を紡ぎ続けていくプロセスの重視へ
現在の取り組みを通して、私たちには気がついたことがあります。それは、子どもの孤立を解消していくためには、まるで部品の欠陥や不備を交換するような機械論的なアプローチでは根本的な解決にはならない、ということです。私たちの生きる社会は、1対1の原因と結果で説明できる単純な構造ではなく、さまざまな要素が複雑に影響しあいながら成り立っています。そのため、1つの課題を1つの解決策で解決しようとしても、他のところに歪みや矛盾が生じることが少なくありません。例えば、虐待の原因は養育者だけにあると決めつけ、養育者を責めるだけでは、虐待という課題そのものを根本的に解決するのは難しいですし、そのことが新たな差別を生んでしまうおそれもあります。また、子どもたちを取り巻く環境を含む社会そのものが常に変化し続けていますので、特定の課題の解決のみに捉われてしまうと、新たに立ち現れてきた別の課題に対応することが難しくなってしまいます。
だからこそ私たちは、複雑な社会を1つの有機的な存在、いわば生命体として捉え、たった一つの最適解という幻想を盲信するのではなく、一人ひとりが生きる一瞬一瞬のなかで、自分たちの手元から社会に関わっていける仕組み・プロセスそのものを作っていくことが大切だと考えました。
◯ 新しい時代の中で、「ひらかれたweの社会」の実現に向けて
私たちは、常に他者や外部環境へ「ひらかれた」状態にあり、お互いに影響しあい、揺れ動きながら存在しています。また、現在拡がっている新型コロナウイルス感染症を含め、私たち人類を取り巻く様々な問題(紛争などの国際問題や気候変動など環境問題、差別などの人権問題など)も、「個人」という枠組みだけでは捉え切ることができない、さまざまな要素が影響しあいながら発生しています。個人を越え、私という存在が、社会や地球環境と相互に響き合うような「we」の感覚をもって捉えてはじめて、「問題」とされていることが私たちに与えている影響の実態に近づくことができます。
私たちは、ひとりひとりがそのような「we」を実感できる未来を「ひらかれたweの社会」と定義します。そのような「ひらかれたweの社会」実現のためには、「市民性」醸成が鍵になると考えています。
ここでいう「市民性」とは、物質の所有や消費、あるいはイデオロギーや特定の価値観に自分の人生の主導権を握らせることなく、自分自身の願いに目を向け、自分の時間を生きることを通して、社会に働きかけていく態度や作法を指しています。それは、個人の能力や結果の優劣を問うものではなく、他者や社会との相互作用のなかで、その瞬間瞬間に立ち現れる、連続的な状態でもあるともいえます。
だからこそ私たちPIECESは、常に市民性を意識し実践し続ける場所(コミュニティ)づくりと、それを支える持続的な経営を目指していきます。
◯ 市民性醸成を広い視野で、持続的に支える経営基盤へ
私たちは時代を超えて、子どもを取り巻く環境に働きかけ、市民性を実践し続けていくためには、グローバルな視点や歴史的な視点を踏まえた上で、現在起きている現象を見渡していく広い視野が必要であると考えています。それは、局所的な判断に捉われるのではなく、今みえていない誰かへの想像力を養う必要があるからです。また、市民性醸成の活動は、短期的にわかりやすい成果が出るわけではなく、継続的に行っていくことが重要です。そのため、理事には、幅広い知見を持ち、多くの社会起業家が紡ぐ「いまこの瞬間」に関わる小野田峻弁護士、メンタルヘルス領域で起業し、現在は幅広い領域での起業家支援を行う荻原国啓氏を迎え、市民性醸成のための広い視点をもちながら持続的な事業展開を目指します。また、監事には、市民性の醸成において土台となる「人権」を軸にビジネス支援を行う佐藤暁子弁護士と、数多くの非営利団体の経営を会計・税務面から支えてきた長田和弘税理士を迎え、健全な経営を目指すことにいたしました。
理事