多様な人が共存できる「余白」をつくり、誰も排除しない地域福祉へ- 第6回 One P’s Night イベントレポート

こんにちは。PIECESインターンライターのエミリーです!

11月16日、地域福祉の立場から「多様なあり方を面白がる場のデザイン」を考える、One P’s Night(ワンピースナイト)が半蔵門のLIFULL HUBで開催されました。

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One P’s Night(ワンピースナイト):株式会社LIFULLの社会貢献活動支援委員会が主催するイベント。社会問題の解決にとりくむNPOや団体、人を招き、一緒になって問題解決を考える場。今回で第6回目を迎えた。

今回は、京都府京丹後市で「ごちゃまぜの福祉」をめざして複合型福祉施設のコーディネーターをされている川渕 一清(かわぶち かずきよ)さんと、兵庫県尼崎市でまちづくりのさまざまなプロジェクトをおこないながら今年11月「ミーツ・ザ・福祉」というイベントを作りあげた藤本 遼(ふじもと りょう)さん、そして認定NPO法人PIECES理事の斎 典道(さい よしみち)さんをゲストに迎え、さらにモデレーターとしてPIECES理事の青木 翔子(あおき しょうこ)さんが加わって4人でトークをおこないました。

定員40名の参加枠に対して、50名以上のお申し込みをいただき、大盛況となった今回のOne P’s Night(ワンピースナイト)。「多様なあり方を面白がる場のデザイン」というテーマから、多様なあり方を面白がるとは?という問いからお話が始まりました。排除せず多様な人と共存する新しい福祉、それを取りまく場のデザインについてのお話をレポートします。

登壇者紹介

まずは、今日お越しくださった3人に、それぞれの取り組みについて聞きました。

◆ 斎 典道(さい よしみち)さん - NPO法人PIECES理事

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さい:こんばんは。NPO法人PIECES理事のさいです。PIECESは、誰もが尊厳を持って生きられる豊かな社会をめざして「こどもの孤立」という課題に取り組んでいます。今年10月に認定NPO法人になりました。わたしたちは、虐待やネグレクト、貧困などの子どもを取り巻くさまざまな問題の背景には「子どもの孤立」があると考えています。子どもたちが孤立していく理由は、そもそも人から大事にされる経験に欠けていて、人を信用できず自分を大事にすることもできなくなってしまうからです。子どもの孤立のループを止めるために、わたしたちはコミュニティユースワーカー(以下:CYW)を育成し、CYWによる子どものサポートをおこなっています。
PIECES 公式HP



川渕 一清(かわぶち かずきよ)さん - みねやま福祉会

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川渕:京都府の京丹後市からきました。地元が京丹後市というご縁で、3年前から社会福祉法人みねやま福祉会で仕事をしています。それまでは東京で普通のサラリーマンをやっていました。みねやま福祉会は、2020年で70周年を迎える社会福祉法人で、戦災孤児の受け入れから始まった歴史ある法人です。現在わたしはそんなみねやま福祉会の複合型施設「Ma・Roots(マ・ルート)」でコーディネーターをしています。

「Ma・Roots(マ・ルート)」は、特別養護老人ホーム、障害者支援施設、保育園を全部ひとくくりにした複合型施設です。それぞれ「○○支援施設」など福祉っぽい名前をつけず、「エルダータウン」「ワンダーハーバー」「キッズランド」といった名称にしています。福祉っぽい名前にしちゃうと、支援する側とされる側の分断がおこるような気がして、地域の方やご利用者のご家族も馴染みやすくなるようにと検討を重ねました。日々、「ごちゃまぜの福祉」を目指して実践している中で、施設を日常的に利用する人以外にも門戸を開いています。「居心地がいいな」と思って、気づいたら福祉施設だったという場所になったらいいなと思っています。
みねやま福祉会 Ma・Roots(マ・ルート)公式HP



藤本 遼(ふじもと りょう)さん - 「ミーツ・ザ・福祉」仕掛け人

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藤本:兵庫県の尼崎市から来ました。尼崎を中心にまちづくりの仕事をやっています。いろんな人とプロジェクトをやるなかで、おもに企画やファシリテーションをしながら、街を面白くする活動をしています。そのひとつが「ミーツ・ザ・福祉」です。そもそも「ミーツ・ザ・福祉」は36年間続く、障害のある方とそうでない方がお互いに理解を深めようというイベントです。いろんな人と一緒に楽しめたらいんじゃないかということで、昨年から尼崎のNPOとぼくが入って一緒にやっています。

一番大事にしたのは、実行委員会をオープンにすることです。開催の半年前からワークショップを開いて、どんなイベントにしたいかみんなで話しあいました。10年以上イベントに関わっていた人も、初めての人も、福祉に関わっている人も全然関わっていない人も、あわせて80人くらいがボランティアで関わって、当日4000人が来てくれました。あるアパレル関係で働く方が「だれかのものさしを気にして、今まで生きてきたような気がする。でもこの場は、多様なあり方が肯定されるような場だと感じる」と話してくれたんです。いろんなあり方があって面白いと、新たに気づかされる場っていうのが面白いと思うんですよね。
ミーツ・ザ・福祉 公式HP

 

「目的がたくさんある場づくり」で、多様な人に場を開く

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これからの場づくりには、多様なあり方をおもしろがる場づくりが大事だと思うのですが、「多様なあり方を面白がる」って具体的にどういうことだと思いますか?


川渕:どんな人でもとりあえず受けとめてみて、どんな場が作れるか考えてみることでしょうか。場づくりでは、関わる人とのコミュニケーションがすごく大事だと思うんです。たとえば、Ma・Roots(マ・ルート)で働いていると、認知症のおばあさんが毎日事務所に入ってきて、いつも隣に座るんですよね。毎日ぼくの隣で同じ話をしてくれるんですけど、それでいいと思うんです。「こうでなければならない」なんてことはなくて、そこにいる人たちとどう場を作っていくのか、ポジティブに考える姿勢がとても大事な気がします。

藤本:「ミーツ・ザ・福祉」でも50人くらい集まって、グループごとにミーティングをするんですが、会議に疲れちゃう人がいるんですよ。最近までうつ病にだったけど、面白そうな場だから頑張って出てきたという人。でも、やっぱりちょっとしんどくなっちゃって、という話があって。なので「喋らないでもいいエリア」を作りました。ただそこにいてOKというエリアなんです。我々が思うような「貢献」をしなくていいような場の作り方って非常に大事なことなんじゃないかと思います。

さい:利用者にとって、その場に多様な選択肢があることはとても大事なことですよね。PIECESが場を設定する時、「ゲームを作る」とか「スポーツ」とか「学習」とかある程度目的を絞ります。とはいえ目的がひとつだとこどもは飽きるし、なんか違うなと思ったときに逃げ場がなくなるんです。そうなったときに、他のことに興味をもつ余白があるのは大事ですよね。福祉って、ニーズを縦割りの構造で捉えがちなんですけど、多目的的な場になっていることはそういう意味でも大事だなと子供たちの姿を見ていて思います。

 

「余白」はつくるのではなく、自然と生まれるもの

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他者が関わる余白を、具体的にどう作っていけばいんでしょうか?

さい:遼さん、余白づくり名人な気がしますが...

藤本:抜けてるだけなんですけどね~(笑)なんか…なんなんでしょうね。ダメでもいいよねっていう感じを僕が出してるんですね。一応リーダーだけど、指示も出さないしビジョンも語らない。ビジョンを語ると、みんながそこに合わせて自分自身を変えてしまうんですよ。それって大事なことかもしれないけど、多様なあり方を肯定することにはならないと思うんです。だから、コンセプトやストーリーはよく語ります。関わる人が多ければ多いほど、僕の語るコンセプトに対しての考えも違ってくる。その中でそれぞれのスタイルが生まれてきて、それが場を面白くすると思います。

さい:そういうの気持ち悪がる人もいませんか?

藤本:います。方向性を示してほしい人もいらっしゃるけど、そんなときは、みんなで喋りながら考えていこうかっていう話をします。

川渕:「ごちゃまぜ」な場では、我々が何かを提供するわけじゃなくて、気づかないうちに余白の中から関係性が生まれているケースがあります。選択肢はつくるけど、それを選んでも選ばなくてもいいよというスタンスでいますね。たとえば、Ma・Roots(マ・ルート)のカフェスペースにはけん玉が置いてあるんですが、障害者の就労支援に通っているけん玉名人がコツを教えてくれるんです。「足を斜めにこう動かせばできるよ」って。それが「入ったー!」ってなると、もう関係性が生まれちゃってるんですよね。

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藤本:非常に思うのは、恣意性みたいなものが見えたときに、途端にやる気なくなることが結構あるんですよ。全般的に、ワークショップをやって地域のプロジェクトを立ち上げて進めていくときに、「いくつ立ち上げなきゃいけない」みたいなことが意図せずとも伝わってしまうと、途端にやる気を失ってしまうんです。何が起こってもいいし何も起こらなくてもいいってスタンスを貫くのは、めちゃくちゃ大事な気がしますね。

 

共感できない他者を排除せず、関わり続けることで変化が生まれる

多目的な場づくりや場を開いていくことは、今までの福祉や場作りのあり方を変えることですよね。これまの福祉との対立はありますか?

藤本:価値観がぶつかることがあります。「ミーツ・ザ・福祉」は、35年間地域の方がやっているイベントで、そこに去年から僕らが入って、変えたという経緯があるんです。去年は今までずっと継続的に関わっていた方に「障害者のことをわかってない」と言われたりして、お互いに理解や共感をしあえなかったんですよね。でも今年は、そのコミュニケーションが少し変わって「晴れてよかったね」とか声をかけてくれたんですよ。

共感できなくても一緒にいた結果、お互い気づかぬうちにちょっとずつ変わっていたんです。障害者健常者に関わらず、理解や共感ができない他者とどう共存していくのかということは、これからの時代を生きる僕らにとって非常に大事なことだと思ってます。排除すると関係性は途絶えてしまうので、ずっと関係性をホールドし続ける強さやたくましさが、地域福祉には大事だと思うんです。

川渕:そういう意味でいうと、Ma・Roots(マ・ルート)は、これまで縦割りだった特別養護老人ホームや障害者支援施設、保育園を複合したという側面があり、これまでの分断された福祉のスタイルを大胆に変えていると思います。Ma・Roots(マ・ルート)は福祉施設なんですけど、門がなくて、24時間誰でも入れるんです。そこには認知症のおばあちゃんの鼻を拭いてるこどもがいたり、小さなこどもと一緒に動画をみている自閉症の男の子がいたりします。縦割りではないこの感じが心地いいと僕は思っていて。居心地がよくて、気づいたら福祉施設だったというのを目指してチャレンジしていきたいと思います。

さい:僕はPIECESの理事をしながら、週2日は区役所でソーシャルワーカーとして働いているのですが、区役所の人が市民と関わる時間は、穏やかな時間ばかりじゃないんですよね。怒鳴りに来たりする方もいて。そういう状況から、地域の人と関わってエンパワーされることはあまりないし、お互いエンパワーしあう場にもなっていないと思います。お互いの立場を尊重しながら排除することなく関係性を持ち続けるために、行政でできること、一般市民ができることをきちんと明確にしていくことが重要ですよね。

ありがとうございました。




まとめ

新しい地域福祉の現場で、健常者と障害者を分断したり、保育園や老人ホームを個別に作ったりするのではなく、多様な人がお互いの差異を受け入れ共存していくという新しいスタイルが生まれつつあります。多様な人たちが共存するためには、理解できなくても、共感できなくても、お互いの存在を否定せず、相手に変わることを期待せずに関係を持ち続けていくことが、とても大事なんですね。誰も排除しない多様な場が、今後どんどん周りに増えていったり、作る人が増えたりするのがとても楽しみです。

 

グラフィックレコーディング (レコーダー: あるがゆう)

登壇者のお話のエッセンスや、感情や場の温度の高まったポイントを中心に描き起こしました。よろしかったら上記の内容と照らし合わせながらご覧いただければうれしいです。

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小幡 絵美梨(おばた えみり)


法政大学経営学部の4年生。長野県塩尻市出身で寒いところが好き。
PIECESがテーマとする「子どもの孤立」が自分の問題意識とぴったり合致してPIECESにインターンとして参画。記事を書くのも好きですが、グラレコをするのも好きです。